第14話 ユメの続き ~クロガネの機動②

 コロニーの管制系からデータを取り寄せて、それを基に進路を決定する。

 エレベーターの通り道を使って物資搬入通路へ入り、港湾エリアを通って防衛隊基地を目指した。


 今は先の戦闘から、三時間ほどが経過している。流石に外の状況も安定しているのではないだろうか。

 エレベーター通路以外は徒歩での移動になる。もちろん、歩くのは桜花だ。

 特に急ぐ道のりでもないし、歩行の間は機体に心体をなじませてながら進むことにした。


 いやーびっくりだね。


 兵装の装備後にチュートリアルを試してみたけど、アレは良いものだったよ……フルダイブ!

 いやー、来年の第一号のベータ版を待つことなく、メタバースのフルダイブってのを体験したよ。うん、ここまで新兵器の機能を知ってしまうと後が怖いね。

 生還後、速やかにお家に帰れるかなぁ……無理だろうなぁ……。


 とにかく、今は真木さんと桜花を無事に送り届けて点数を稼ぐのだ。

 さすがに巻き込まれた無辜の民間人を粗略には扱うまい。きっと、機密保持契約なんかを結んで解放のルートで済みだろう。

 ならば、軍用機を操縦するなんて機会は、もう一生あるまい。今のうちに堪能しておこう!


 と、いうわけで、現在、歩く道々ハーフダイブというものを経験している。

 これって意識の半分をリアル側、もう半分をサイバー側にって感じの語感だけど、それ全然違うから! サイバー側の割合がメッチャ多いから!


 最初の頃は意識の一部を残したまま、サイバースペースの操作もできますよーって感じだったのが、慣れてくると普段の体の感覚にサイバースペースの感覚をくっつけた感じになった。

 しかも桜花の感覚器官とリンクすると全周視界になったりなんかする。そのくせ、肉眼の視界も別に認識してるっていう。

 さらに、操縦桿や各種インターフェースを介さなくても、サイバースペースで各種兵装や機体の制御を感覚的に行える。

 うーん、なんというか……とにかくフルダイブより面白い!


 僕、さっきは頑張ったからねぇ。これくらいのご褒美があっても良いと思うんだよね。


 お、港が見えてきた。


 通路の終点からドックを通して、宇宙港みなとが見える。


 うん、今朝に見学したままなかんじだね。コッチでは戦闘はなかったようで安心したよ。


 あれ? ……なんか、閑散としてない?


 ドックには、搬入待ちなのか積み込み待ちなのか、堆く積まれたコンテナが目に入るが、それらが移動している様子はない。いや、人気が無いのだ。船もない。


 さすがに避難したのか? 場合によってはここで引き渡しになることも考えていたが……これは……いよいよアレですな。


 宇宙での飛行体験!


 宇宙港へ出るとなると、飛ばなきゃならんからね! 仕方ないよね!

 決して、エレベーター通路の降下体験だけでは物足りなかったとかじゃない。


 では、報告とお届けのために仕方なく宇宙港へ出る事としましょう!



 ——で、なんでこうなるかな……。


 現在、コクピット内はレッドアラームと危険表示の嵐である。

 宇宙港を出て平和だったのは三十秒くらいだったな……。

 レッドアラームの原因は桜花が照準対象になった事である。数も半端ないな……お、三桁いったよ。


 目の前にはコンテナの影や停泊艦の中からワラワラと姿を見せた、港湾警備隊の水色の機体と、防衛軍のライトグレーの機体。

 戦闘機が三十五機。人型機動兵器が二十四機。それぞれが複数の武装を準備していると……。


 こういう時は、まず両手を挙げよう。

 敵対の意思はないことをアピールだ——僕は話の通じる人間ですよ?

 まあ、桜花の両手を挙げたところで、固定兵装は撃てるから意味があるかは疑問だけど。



「コチラに敵対する意思はありません。負傷した真木准尉をお連れしました。必要ならコクピット内の映像を解放するので通信パスを送ってください」



 公共通信波にのせて発信してみる。って、撃ってくんなよ! 問答無用かい!?


 四方八方からのエネルギーの奔流にモニターが真っ白になる……が、残念。既に対策済みなのだよ。


 プロテクションフィールド——レッドアラームからコッチ、僕の心に余裕があった根拠である。

 これは機体表面を覆っているバリアのような物だ。業界ではシールドと呼ばれているらしい。

 理屈はよく分からないが、熱や衝撃に対する中和能力がある。ただし、一定以上のエネルギー強度に対しては無効になる。

 ならば、出力を上げればという事で、最大出力で展開すれば対処できる強度も増して、さっきのような芸当も可能になる。

 ……頭ではわかってたけど、モニターが真っ白になった時は正直言ってヒヤッとした。

 こういうブッツケ本番での実験をするなんて状況は勘弁してほしい。ホントに。


 一斉射撃を受けても問題ない事はわかったが、アレをやると戦闘出力の八割強を持っていかれる。

 念のため、必要なエネルギーをコンデンサーのように溜めておける回路を四箇所に設置してあるが、最大出力の維持は一箇所当たり十秒弱といったところなので、多勢に無勢では使いどころを工夫しなければならないだろう。


 さてさて、どうしたものか……まず、外へ逃げるのは避けたい。

 だって、撃ってきたコイツ等の識別信号って味方のなんだよねぇ……。

 ここで外に逃げたら、敵認定だよ——私は軍用機を盗みましたって認めたようなものだからね。真木さんがいる以上それは避けたい。

 それに、外に強奪の真犯人の仲間がいたら、挟み撃ちだ。


 ここはひとつ、押し通って防衛軍の基地まで行ってみるかね。

 一部の暴走って線もあるし、基地まで行けば正規の対応をしてもらえるかもしれない。


 早速、高機動形態に変形。配置された戦闘機の間を縫うようにして移動する。


 オニイトマキエイのようなフォルムの機体が、時に羽ばたくような動作をし、また時に体を折り曲げたりしながら、航空機の間をすり抜けていく。


 かなり無茶な動きをしているが、慣性制御システムの働きによりコクピット内は平穏そのものだ。

 このコクピット内の慣性制御、実は機体機動の副産物なのだ。


 慣性制御装置の主役は、機体をオニイトマキエイに例えるとヒレにあたる部分にある。機体に働く慣性をヒレの位置関係を変えることで捻じ曲げ、急激な気道変更を行っている。この時の慣性の方向変化の余波がコクピット内の慣性制御に一役買っているのだ。


 しっかし、コッチが回避に徹してるからって、景気よく撃ち込んでくるものだ……ゴロツキか?


 ようやく、防衛軍基地が見えてきた……臨戦態勢の。



「コチラに敵対する意思はありません。負傷した真木准尉をお連れしました。着陸の指示を下さい。必要ならコクピット内の映像を解放するので通信パスを送ってください」



 ……うん。言ってみただけ。ヤッパリ撃ってきたね。

 こりゃぁ、新型機強奪イベントじゃなくてクーデターだな。


 桜花を加速させて基地敷地内へなだれ込む。

 すり抜けざまにショットガンを撃ち込んだ機体が後方で誘爆して吹き飛ぶ様子を確認しながら人型に変形。ショットガン、ミサイル、ガトリングガンを乱射しながら基地内を練り歩く。弾薬が空になったら銃身ごと投げ捨て、次々と満装填された銃器に持ち替えて破壊をばらまく。

 どうやら奴さんにはシールドに準ずる装備がないらしく、一方的な蹂躙劇になってしまった。

 なんか桜花って性能良すぎないか? 宇宙人とか超文明とかいったムー的な機体じゃないよね?


 それから、こちらは一人しかいない、降伏勧告はしないよ?


 ザックリと基地の敷地内に動くものが無くなったことを確認。宇宙港へ進路をとる。

 コチラを追って来た機体の配置がちょうど良い具合に長く伸びている。


 手前から順に、装備兵装の特性を確かめながらすりつぶしていくことにする。

 後半は逃げ出そうとした機体もいるが、まあ、あきらめろ。手前にいた足の速い機体は蹂躙済みだ。君らの速度では逃げられない。


 対象がいなくなったので、機体の性能テストを終え、宇宙港から物資搬入口を経由、メンテナンス用の通路を通ってコロニーの外殻に取り付く。


 真木さんの治療の進度は……完治まであと十時間か。

 市街地の確認は明日以降にして、とりあえず休もう。レーションを摂って休むことにする。


 桜花に周囲の警戒を任せて寝てしまおう。僕もう疲れたよ。




 心地よいまどろみの中から浮上して……って、鉄のオブジェ?

 目を覚まして最初に見たものは、金属製の木の枝とその向こうに放射線状に並ぶ墓標のような筒の群れだった。

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