第13話 ユメの続き ~クロガネの機動①

 コクピットを出たところでアラーム音に気付いた。

 しまった。位置的に外の音が聞こえない位置だったか……。

 アラーム音の出所は考えるまでもなく真木さんだろう。


 アラーム音は真木さんのパイロットスーツの生命維持装置からだった。

 装置のモニターには気圧低下の表示。原因が真木さん自身でなかったことに胸をなでおろすが、気を抜くにはまだ早そうだ。軍のパイロットスーツなら、たとえ真空中でも問題ないだろうが、僕はヘルメット以外は平服だからね。急がないと動けなくなるかもしれない。とっとと向こうの機体へ移動しよう。



「じゃあ、ここでお別れだ。またな」



 ワーカーをねぎらい、OUKAシステㇺの機体—桜花でいいか——へ移動する。

 コクピット付近へ近付いただけで補助シートが準備される。なかなか気が利いている。……頭の中を覗かれてるからだろうけど……。若干の不気味さを感じつつ真木さんをシートに固定。さあ、ここを出ますか。



『OUKAシステムにようこそ。機体ナンバーNYANC002323の起動を開始します。機体ナンバーNYANC002323の現兵装のチェックを開始します……完了。現在、兵装は装備されていません。機体ナンバーNYANC002……」


「この機体の呼称を変更する。現在から機体呼称を桜花おうかとする。桜の花だ」


『肯定。只今より、機体ナンバーNYANC002323の呼称を機体ナンバーNYANC002323より桜花に改めます。現在、桜花に固定兵装以外の兵装は装備されておりません。また、付近に専用装備品の反応が複数あります。使用する兵装の指示をお願いします』


「どんなものがどこに装備できるのか、また、兵装の組み合わせのプランがあったら教えてくれ。それから、今の場所と周りの現状についてデータを集めてくれ」



 頭の中に次々と映像付きのデータが流れ込んでくる。目を閉じて頭に浮かぶデータの検証に入る……多いな。

 素体の固定武装はシンプルに抑えて、装備の組み合わせで状況に合わせるってコンセプトだね。ほうほう……変形機構を組み込むことも可能と……全部を持っていけないのが残念でならない。武装は実体弾系兵装以外にエネルギー系兵装もあるみたいだ。……ビーム魚雷ってどんな仕組みなん?


 エネルギー兵器は読んで字のごとく、エネルギーの変換により攻撃能力を得る——乱暴な言い方をすれば、エネルギーが弾丸である。したがって、桜花のジェネレーターが稼働している限り、弾切れの心配はない。


 桜花のジェネレーターの稼働時間を調べたところ、燃料切れを心配するような長さではなかった。恐らく核融合か、それに近い何かだろう。

 とにかく、稼働時間がこれからの行動に問題ないくらいに長いのならそれで良い。


 出力については真木機や洲巻のデータと比べて、実に四倍強の差があったのだ。

 出力は同時稼働できる兵装の数に直結するので、疎かにできない。しかし、戦闘出力については現状で理論値しか分かっていない。とりあえず、試験的にでもやってみないと分からないんだよなぁ……さて、どうしたものか。


 実体弾は、まあ、普通の鉄砲やミサイルなどだ。コチラは単純に持っている弾の数の分しか撃てない。数に限りがあるのだ。しかし、エネルギー兵装より機構が単純で嵩張らない。

 しかも、使うのにジェネレーターの出力割合を圧迫しない。

 単純に、全力射撃をした場合、エネルギー兵装は同時に使用できる数量に限りがあるが、実体弾兵装は引き金さえ退ければいくらでも同時に撃つことができる。


 個人的には実体弾兵装を主軸にしたい。単純にロマンがある……ような気がする。ま、好き嫌いなんだけどね。

 戦闘稼働における出力の如何が、予測でしか分からない以上、用心して置くに越したことはあるまい。


 そして、補助兵装だ。これによって桜花の運用の方向性が変わる。俗にいう宇宙用とか水陸両用とか言うアレだ。

 加えて、桜花の場合は変形の要素も発生する。できれば変形させたい。

 桜花の出力が桁違いに大きいのは、おそらく補助兵装の運用に割く必要があるからだと考えている。


 色々な要素を鑑みた結果、まずは八割ほどを趣味全開でデザインして、それによって発生した不安要素を追加兵装で補うという方向性だ。


 という事で、出来ました。

 重要な要素である変形。これについては三段変形。基本はヒトガタ。

 で、直進性優先の鋭角的な戦闘機形態。姿勢制御用のスラスターも最低限を残し、直進性の獲得に全振りしてる。

 高速戦闘用の一部可動式の戦闘機形態。なんか、オオイトマキエイみたいな形で、スラスターの方向を関節の駆動で変化させれば、急機動ができるんじゃん? という思いつきでやっちゃいました。多分、メチャクチャ出力を喰うと思う……が、後悔はない。


 武装の方は実体弾兵装を中心に、予備というかお守り程度にエネルギー兵装をチョイス。

 装備する実体弾兵装も、撃ち尽くした端から切り離し、本体を軽くしていく方向性でデザインした。


 さて、満足したところで、真木さんの様子を確認する。

 治療中は麻酔されてるっぽくて、一向に起きる気配はない。いかにナノマシンでも一時間やそこらで骨折から何から完治させるという事はできないようだ。

 今後の行動について相談したかったが、仕方ない。隣の格納庫で準備が終わり次第出発しますか。

 とりあえず、の内部方向へ向かうことにしましょうかね。

 桜花に乗っている以上、すぐには解放されないかもしれないが、保護してもらえばその時点で終了だ。

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