第12話 ユメの続き ~操縦席→コクピット②

 まさか、ワーカーで体当たりしながら潜った扉がエレベーターの扉だったとは……。

 そういえば、扉の横にボタンらしきものがあった気がする。


 既に始まってしまった落下について、今から後悔しても仕方ない。生存の道を探ろう……いつものことだ……あれ? いつも? ……ま、いいか。


 昇降路の幅はワーカーが両手足を伸ばした長さより大きい——よって壁を使った減速はできない。


 チラリと真木さんを見る。涙目で何事か叫んでいた。しかし、声は聞こえない。

 やはり、僕のヘルメットの通信機と彼女のヘルメットのそれとは直接の回線は繋がっていないようだ。


 手近なワイヤーに腕部フックを掛け捩じることで落下スピードを調整する。



「ここらかな?」



 重心移動により、ワイヤーを中心に一回転——勢いを利用してワーカーを手近な横穴に飛び込ませた。

 横穴に入りながらチラリと確認した昇降路へ、ちょうど爆風が踊り込んできた。

 ヤッパリ、アイツら、証拠隠滅と脱出の時間稼ぎに爆薬を仕掛けてやがった。

 ああいう手合いが考える事はいつも同じだな……いつも……いや、些細な事だ。


 背後に熱と圧を感じつつ、ワーカーのアクセルを踏み潰す。

 着地前に回転数を最大にしていた駆動輪が、床との間に黒煙を上げる。


 ワーカーの腕部駆動輪に急制動をかけ、ワーカーを横倒しにする。

 ワーカーのボディが滑るに任せて移動へ移動し、爆風とコクピットの間にボディを挟むように手足で調整する、可能な限り衝撃と飛来物を防ぐためだ。

 ダメ押しに真木さんに覆いかぶさって、盾を追加する。



 数分後、ワーカーの上半身を立てる。散らかった格納庫の残骸の一部が操縦席の簡易カバーを滑り落ちる……が、そこまでだった。


 ワーカーの脚部と右腕が完全に破壊されている。

 これ以上の移動は無理だ。

 それに駆動輪では瓦礫を越えられない。


 ……さて、ここはどこだろう?


 目の前に巨大な人型の機体が横たわっている。どことなく、上階で見た機体に印象が似ている?

 爆風の煤と埃にまみれているが、黒いカラーリングに金のアクセント、あと控えめに薄い桜色も使われている。大腿部が大きく、それ以外はスリムなフォルムだ。



「真木さん。コイツ、使えますかね?」



 返事がない。どうやら気を失っているようだ。

 真木さんのパイロットスーツの腰の部分に救命システムを発見! スマホのような物体がモニターに真木さんの状況を表示している。



「スゲー! 既に治療用のナノマシンが稼働してるよ。さすがは正規軍。初めて見たよナノマシンが仕事してるとこ……見えないけどな!」



 真木さんはこのままで大丈夫っという事で、先ずは周囲の探索をしておこう。

 ワーカーから降りて振り返る。おまえ、傷だらけだな。よくったよ、ホント。



「ありがとうな……」



 ワーカーの機体を一撫でして、黒い機体の脇へ移動。グルッと一周して外観をチェックしたら、早速コクピットへ続いているであろうタラップを登った。


 タラップの先端はコクピットカバーのすぐ脇まで伸びており、簡易な端末と工具箱が据え付けられていた。


 タラップの先端、この辺りにコクピット開閉の仕掛けがあるはずだが……。

 お、端末にOPENってあるじゃん。

 開ける前にほこりを払っておこう。内部に塵が入ったらコトだ。

 工具箱の横に箒がある辺りがココの管理者の性格が分かるね。


 どうやらシステムは生きているようで、端末の操作だけでコクピットが顕になる。


 とりあえず、パイロットシートから手が届く範囲でシステムの起動方法を探ってみる。



『パイロットとシステムを同期します。 脳内ランシステムを解放してください……エラー』


『有線ジャックシステムでのリンクを行います……エラー』



 どうやら、シートに座ると自動で起動するらしい。



「手動で起動したい」ダメもとで要望を口にしてみる。


『手動での起動シークエンスを開始します。 チュートリアルモードへ移行します』


「チュートリアルは不要だ。取り扱いマニュアルをモニターに表示してくれ」



 シートの正面モニターにマニュアルが表示される。

 何ということでしょう。『シートに腰かけてグリップを握りましょう』という言葉しか表示されていません。


 仕方ない、シートに深く身を沈め、操縦桿のグリップをにぎる。

 自動でセーフティーバーが降りてきて体をシートに固定する……あれ?



『脳電位探知モード起動。パイロットの登録開始』


「え? チョットま……」


『パイロットの登録を完了しました。機体制御制御を開始します……完了しました。リンクの確認をします……完了しました』



 あ、良かった……うん、登録だけね……楽でいいじゃん。



『続いて、操作コマンド群の脳内転写を実行します』



 チョット待てぇぇぇェェ。



『実行中に席から離れると、脳に重大な障害が残る場合があります』



 はい、じっとしてます。もう動きません。


 うわー……、なんか変な感じ……。知らないことが既存の知識みたいに浮かんだり消えたりしてる。これって、アレだ、電気で筋肉を動かすやつの、脳版みたいな。


 転写は十五分くらいで終了した……多分。セーフティーバーが上がらないってことは、まだ何かあるのだろう。もう、全てお任せすることにした。


 機体の様子を知りたいと思うと、反社的に体が動き、慣れた手つきでコンソールを操作。モニターに情報が表示される。

 うーむ……操作しようとすると、何故か動かし方を知っているかのように動けるのは楽でいい。確かにいいのだが、実際の動作を頭の中でシミュレートしようとすると、上手くいかない。

 つまり、現状で自分が何を知ってるのかはよく分からないってことだ……返って不安になるな。

 多分、咄嗟の時に転写された動きに任せるか、自分のやり方を主体で動くかの判断がカチ合ったりするんじゃないか?

 機動については、とりあえず、実際に動かしながら検証していこう。


 おっ! 初期手順が終了したみたいだ。頭に外へ出る手順が自動で浮かんできた。

 ……何だか、他人に考えてることを見透かされているみたいで落ち着かない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る