第11話 ユメの続き ~操縦席→コクピット①
軍の試験機の格納庫にて、取り付いたライフルマンのパイロットの悲鳴が終わるまで溶接ガンで炙る。
僕が乗るワーカーのホールドアップに思考を停止させたショットガンボブが、無防備に真木さんの援護射撃を受けて踊る。
無防備に踊るショットガンボブのこれまた無防備な背中に取り付き、ショットガンボブの得物をぶっ放して胸部を消し飛ばす。
どうやら君らとは潜ってきた修羅場の数が違うみたいだな……あれ? 修羅場の数? ……まぁ、いっか。
とりあえず、状況終了!
「グッジョブ! 真木さん!」
協力してくれた真紀さんに感謝を示そうと彼女が乗る機体に親指を立てた時『ミチリ』——金属が千切れる時の最初の振動音——を肌で感じた。
咄嗟に右手の操縦桿の立て手前に引きつつ、左操縦桿を反転させて中指のトリガーを引く。
ワーカーの右腕が真上に射出され、格納庫の梁を掴む。無重力空間での緊急帰還用のギミック、通称『バネ式ロケットパンチ』だ。
『ギィーメチメチメチ……』軍用機二機の重量に耐えられなくなったワーカーの左足が千切れバランスを失った軍用機二機が、盛大だがどこか頼りない音を立てながら床に転がった。うん、完全に沈黙してるね。
僕は右腕に繋がったワイヤーで絶賛宙吊り中だ。右足を失った状態のワーカーで飛び降りるのは流石に不安だし、かといってこのままワイヤーを伸ばして着地し、右手を回収することもしたくない。三十メートル上空から落下した右腕が無事で済むはずがないからだ。
仕方なくワイヤーのウインチを巻き上げて三十メートル上空へ向かう。トラス構造の梁と柱を伝って地上を目指そう。
「器用なものだな」
「案外、むつかしいんですヨ?」
梁の移動中に、真木さんがスピーカーで声をかけてきた。
真木さんへ返事をしながら周囲を警戒——ついでに視界が高い間に適性ユニットの有無を確認しとこう。
「お疲れ様です。この後の事を相談したいのですが?」
無事に地上に着いた僕はワーカーに乗ったまま、真木さんが搭乗する機体——真木機と命名——とワイヤーで雁字搦めになった敵機——洲巻と命名——の両方を視界に収めた。
左腕と両足を失っている真木機は仰向けのまま、既にハンドガンを持った腕を下ろしていた。
腹部のコクピットカバーが開く……どうしたのだろう? 誰も出てこない。
しばらく待っていたが、動く様子がない。
「真木さん? 今からそっちに行きますよ? 機体を動かさないでくださいね」
横たわる機体の脇にワーカーをつけると機体の腹部に飛び移り、内部を覗き込む。
ちなみにワーカーの移動は背中のローラーダッシュだ。立てないからね。
「無事ですか? 真木さん?」
機体と同じ藤色のパイロットスーツを着た真木さんと目が合う。
固定ベルトを外そうとしていた彼女が力なく笑った。
「危ない目に遭わせてすまない。君の協力に感謝する」
「お互いに命があって良かったです。僕が勝手に首を突っ込んだだけですよ。感謝の印はさっき言ってた罰則の手加減にしてくれれば助かります」
真木さんに手伝う旨を伝え、意外と広いコクピット内へ体を滑り込ませる。
ベルトを外し、彼女の体を起こそうと左手を握ったとき、彼女が小さな悲鳴をあげた。
なるほど、自力で出てこれない訳が分かった。
固定ベルトの下、おそらく胸骨か肋骨を痛めている。もしかしたら骨折しているかもしれない。
「真木さん、すいませんが抱き上げます。体に触ってしまいますし、痛みもあるかと思いますが……」
「いや、結構だ。時間をかければ動けるだろう。今更だが、軍属ではない君にこれ以上の負担を強いるわけには——」
外から振動と共に金属をぶつけ合う連続音が聞こえてきた。
音の出どころを確認しようと、コクピットスペースから顔を出す。
停止した二機の敵機の向こうで、洲巻が激しくもがいている。
腹部に絡まるワイヤーがコクピットカバーの動きを阻害しているのか、カバーが僅かに開いているようだが、人間が出られる幅には至っていない。
どうやら、脱出をしたくて暴れているようだが、残念ながらあの機体に複合単分子ワイヤーを引きちぎる出力はないだろう。
!?——何か空気が変だ……。
僕は踵を返すと真木さんを抱き抱える。
「! 何をする!」
「脱出します! 無礼の責任は取りますので、今は従ってください」
「? 責任? い、行き遅r……年上を揶揄うn……なんでもない!」
挙動不審な真木さんを抱え、コクピットの搭乗口の脇に置き、僕もその隣へ這い上がる。
ブツブツと何事かをつぶやいている真木さんを再び抱き上げて、ワーカーのシートに——ワーカーは一人乗りだった……。
動きが止まる——真木さんを見る——シートを見る——真木さんを見る……。
「真木さん……膝の上——」真木さんはフルフルと首を振った。目が無理だと語っている。
「ですよねー」
……思わず天を仰いだ……怪我人に自力で掴まれってのは無理だよねぇ。
ワイヤーまみれの敵機が立てる音の激しさが増した——多分、時間がない。
僕はワーカーのシートを目いっぱい後ろに引いて、溶接ガンを使ってスライドレールをその位置で固定。シートが動かないようにする。
真木さんをシートに座らせ、安全ベルトで固定する。ベルトと彼女の体の間に養生用の毛布を挟むことも忘れない。
毛布はオイルで汚れているが、今は緊急事態である。我慢してもらうことにした。
これで、彼女と操縦桿の間にスペースができる。
さらに、備え付けの工具箱からU字環を取り出し、自分の足元に溶接する——若干の不安はあるが仕方がない。
「真木さん、このハンガーの建屋って地上に出てます?」
「いや、地下に作られている。外部への出口は向こうだ。ただ、置いてある物がモノだから、地上までそれなりの距離がある」
「了解。ありがとうございます」
僕は自分と真木のヘルメットのバイザーを降ろすと、U字環に左足の爪先を突っ込み、立ったまま右足でアクセルを蹴り飛ばす。
自動制御の駆動システムがワーカー背部の駆動輪を急速に最高速へと押し上げる。
「おい、方向が逆だぞ?」
「コッチがいいんですよ」
ワーカーは外部への搬出口とは反対の扉へ突撃する。
「助けてくれ!俺も連れて行ってくれ!」
ワイヤーと戯れている洲巻から声がする。
形振りを構っていられないところを見るに、僕の懸念は的中したようだ。
敵を助けている時間はない。
文句なら最初にワーカーの操縦席を狙った同僚にヨロシク!
ワーカーのスピードと重量に任せて搬入口の扉を突き破った。
一瞬の浮遊感——「あ!」——落下が始まった……。
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