第2話 プロローグ②

 ——状況を整理しよう。


 新型試作機はちななしきの格納庫のほぼ中央、四機の八七式と一台の作業用ワーカーがそれぞれの陣営に分かれてに睨み合っている。


 格納庫内の八七式の配置は以下のとおり。

 格納庫の東側には、単分子ワイヤーで拘束された機体とハンドガンを保持した右腕以外の四肢を失った機体。

 僕の陣営だね。


 西側にはワイヤーで拘束された機体の僚機であろう、それぞれライフルとショットガンを構えた機体が二機。

 相手側だね。


 その他には人型の作業用ワーカーが一台——一機じゃなくて一台ね——、ワイヤーで拘束された八七式と五体満足な二機の八七式の間ちょうど中間に立っている。

 僕が乗っている特殊車両だね。そう、作業用ワーカーって二足歩行なのに分類上は車両なんだよ。


 さて、敵方のライフルを装備した機体、コイツをライフルマンと呼称する。


 ライフルマンの腕部の駆動音からバレバレの射撃を、ワーカーを後方へ倒す事で回避する。さっきからずっと操縦席に砲身を向けていれば狙いも分かろうというものだ。


 続けてショットガン装備の八七式——コイツをショットガンボブと呼称する——が仰向けになったワーカーに向けてショットガンをぶっ放すが、これも外れ。


  作業ワーカーには整備作業の性質上、仰向けで移動が行えるように背部に駆動輪が取り付けられている。


 僕はそのギミックを利用した。

 そのままワーカーの足から二機に接敵する。

 人型機械が寝たまま移動することに驚いたのか、初動が遅れた二機のうち、ショットガンボブの足を蹴り、方向を調整しつつ二機の間をすり抜ける。

 同時にワイヤーを出し切ったことで固定されたウィンチからの反動を利用しつつ、ドリフト気味にライフルマンの背後へと回り込んだ。


 そのまま、手足の大型クランプを展開。敵機のふくらはぎを腕部のクランプでつかむ。

 慣性のまま脚部が跳ね上がるに任せて逆さになりつつ、今度は脚部のクランプで同機の腰部を掴んだ。

 側転の要領で次々にクランプで掴みながら、目的の場所までライフルマンの背面を登る。

 ライフルマンの左肩と腰部の中間あたり、おそらく変形ギミックの根元に高振動ブレードを突き立てる。

 機構部分を直線的に引き切るだけで顕になった予備防壁の周辺に溶接ガンを突っ込み加熱を開始。

 中から悲鳴が聞こえるが気にしない。先に殺しにかかったのはお前だかんな。


 ライフルマンが悲鳴を上げるまで、ポカンとしていたショットガンボブが慌てて白兵戦用武器への切り替えを始める。相手が民間人だからって油断し過ぎだ。

 悠長に得物を背面のマウントに収納してから、ヒートナイフを抜き放つショットガンボブを視界の端に捉えたまま、落ち着いて、じっくりと加熱を続ける。

 僕なら、そのままショットガンでぶん殴るか、マニピュレーターでぶん殴るがね……。

 悲鳴が聞こえなくなったころ、ショットガンボブはようやく間合いに入ってきた。


 僕は脚部のクランプで機体を保持したままワーカーの両手を上げた。

 いわゆる、降参のポーズだ。


 一瞬、ショットガンボブが動きを止めた。

 ホント、お前ら気を抜き過ぎだ。気持ちの立て直しも遅い。

 その一瞬で立て続けに轟音が三回響く。音に合わせるように近接武器を構えたショットガンボブが不格好に踊る。

 ショットガンボブの背中がコチラを向いたタイミングで、左足のクランプを腰部の変形機構にねじ込み固定。高振動ブレードで背部のマウントからショットガンを引きはがし、ショットガンボブに至近距離からぶっ放す。

 胸部を丸ごと失い、支えをなくした腕と頭が床に落ちると同時に、ショットガンボブも完全に沈黙した。



「グッジョブ! 真木さん!」



 鷹揚が異常を感じた時にはもう遅かった。

 ワーカーの脚が千切れ、世界が回ったと思った瞬間——金属と何か湿ったものがひしゃげる音を最後に鷹揚は何も感じなくなった……。

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