無地の旗
にくきう
第1話 プロローグ①
僕と同じ空間内に、どう見ても軍事用の人型兵器が四機。
一機目は僕の後ろ、ほぼ大破した状態で転がっている。
二機目はこれも同じく僕の後ろにワイヤーで雁字搦めになって転がっている——って、あぶねーから暴れんな! 暴れた位で単分子ワイヤーで完全に極まってるんだ、諦めて寝てろって!
で、残りの二機は僕の正面からこちらに銃口を向けている。一方がライフルで、もう一方はショットガンかな。
……銃を構えながら少しずつ距離を距離を詰めるの止めませんか? 怖いんで。
——さて皆さん、新兵器の強奪イベントはお好きかな?
そう、ロボットモノでお約束の主人公と主人公機が出会う伝統イベントだ。
僕も、小さなおトモダチだった頃から大好物なイベントだったよ……モニターやスクリーンの向こう側から胸を熱くしながら成り行きを見守ったものさ……そう、向こう側からね……。
場所は軍の試作機の地下格納庫……多分——ここに至る経緯からそうとしか思えない。
一辺が五十メートル位の正方形の空間に全高二十メートル程の人型兵器——武装しているから多分兵器だと思う——のハンガーが向かい合わせに六箇所。そのため、実際に動ける範囲は短辺二十メートル、長辺五十メートルといったところか。
そして、それぞれの短辺側の壁に搬入口らしき巨大な扉。
僕と彼らは、お互いにそんなどこに繋がってるんだか分からない扉を背に対峙している状態だ。
「どうしてこうなった?……」
自業自得なのは分かってる。分かってはいるのだ。
自分から首を突っ込んだのだから、その首を切り落とされても文句は言えまい。
だが、言わせてほしい。
チョイと不公平すぎやしないか?
さっきから震えが止まらない。
今現在、絶賛殺意マシマシでコッチに銃口を向けているお二方と、僕の後ろで転がっているお二方は鋭角的なフォルムが特徴的な同型機。
多分変形するね! 航空機に。きっと機密性もバッチリだ!
プルーグレーにライトイエローのラインが走ったカラーリング。頭部の側面から後ろに流したツノは多分通信用の設備だろう。
胸部が鋭く前方にせり出している。変形時にはこの部分が機首になるのだろうか?
背面肩部と腰部に一対ずつのブレード。これは飛行翼……弱点だといいな。
目立つスラスター関連は脇の下辺りと脚部、脛辺りが大きいのは足にメインスラスターを搭載しているからだろうか。
対して僕の乗機は、作業用の二足歩行ワーカーいわゆる搭乗型のパワードスーツだ。
赤いワーカーで有名なメーカー製造、安心のロングセラー品。狭所作業向けに左右に扁平な胸部と操縦席前面に備え付けられた副椀が特徴の機体。
標準装備で手足に駆動輪を備えているのが特徴。
武器になりそうなのは溶接兼溶断ガンと電磁カッターに高振動ブレード、そして役に立つか微妙な両腕両脚に備え付けられた折りたたみ式の巨大クランプ。
もちろん、操縦席に隔壁はない! ロールバーと申し訳程度の屋根があるだけだ。
普通、こういうイベントって僕みたいな部外者にこそ、新型機が与えられてしかるべきではないのでしょうか?
ホント、さっきから震えが止まらない。
とにかく、実際に戦うのかどうかは別にして、コッチの手札には接近戦闘しか選択肢がない上に身を守る装甲もない。
しかも、軍用機の方は機体の大きさはこちらの二倍強なのだ。当然、機体の出力も桁違いであろう。
そもそもガチンコでは戦いにならない。
あ、ちなみに、後ろのワイヤーのミノムシは僕が作りました。
ある程度の準備をした上で、ワイヤーフックとウィンチを使って不意打ちで仕留めました。
結果、ウィンチは打ち止め状態。というよりウィンチ機構をパージしないと、このワーカーの出力では身動きもままならない——だから、暴れんなって! ワイヤーに余裕
銃を構えた二機が撃ってこないのも、味方が乗っているであろう機体への着弾を避けたいからだろう。
君らの得物チョイと過剰出力だったもんね。
さて、単純に僕が移動のために股間のウィンチをパージしたら、その瞬間にこれ幸いと撃ってくるだろう。奴さんにとって、作業ワーカーなどは一発でも当てれば勝ちのザコなのだ。同志撃ちさえ避けられれば、格納庫内の損害は気にしないだろう。
下手な動きはできない。
そもそも、ここまでが出来すぎていた。一機とはいえ軍用機を作業用ワーカーで戦闘不能に追い込んだことが奇跡なのだ。
これ以上は無茶の領域だろう。
「後ろのスタッフさん、仕掛けたトラップで援護するから脱出してください! もう、勝ち目はありません!」
ワーカーに備え付けの拡声器で呼びかけてみる。ちなみにトラップなどの準備は無い、ハッタリだ!
当然、暫定敵の機体も聞いているだろうが構わない。
こちらに戦闘継続の意思がないことが伝わればそれでいい。
返事の代わりに、僕の後ろで小破している方の機体が起きあがろうと上半身を持ち上げるがすぐに体制を崩す。
ハンドガンを持っている右手以外、達磨状態なのだ。バランスなど取れるはずもない——なんで動いちゃうかな? トドメ刺されたらどうすんの。
「そちらのお二人に提案なんですが、自分はこれ以上介入しないんで見逃してもらえませんかね? そちらも長引かせたくないでしょ?」
「何を考えている! 敵に八七式かわたれを引き渡す? 貴様の所属は? この件は利敵行為として報告させてもらう!」
几帳面そうな女性の声が格納庫内に響いた。本人確認が取れました。ああ、間違いない。ここに来る前に聞いた声だ。
「真木さんでしょう?
言いながら、手元の端末の対話アプリでこの後の僕の動きを伝える。ついでに二回ほどコールもしておいた——見てくれると良いんだけど。
つくづく、連絡先の交換をしておいて良かった。
それにしても、『かわたれ』って確か第四世代の試作機につけられるコードネームだって聞いてたけど……そっかー、ホントに新型機の強奪イベントだったんだ。
じゃあ、猶更
「鷹揚君? 民間人がなぜ戦闘に関わってるの? 早く逃げなさい!」
ここで、暫定敵機の腕が軌道音を発する。
同時に僕は乗っているワーカーを仰向けに倒す。
直前まで操縦席があった場所を音速を越え、破裂音をまとった飛翔物体が通過した。
何があったかは、考えるまでもない。
攻撃可能域に入った暫定敵機が敵機になっただけだ。
しかも、容赦なく操縦席を狙ってきた。
民間人と聞いて組み易しと踏んだのだろう。或いは、嗜虐心からか、八つ当たりからの見せしめかな。
体の震えが大きくなった——困ったな。楽しくて仕方がない……。
——あとがき——
はじめまして、最後まで読んでいただきありがとうございます。
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