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「今日は、世界で一番あまーいデザートも用意してるよ」

 と秀雄は言って、岩をも砕きそうなウインクを射た。

 中華のコース料理を食べ終えた夏実は、もう満腹だ。

「あたしを太らせて、どうする気ですか?」

「決まってるじゃないか。食べるんだよ」

「キャア、あたしは、ブタですか?」

 彫りの深い二重の目が熱っぽく見つめる。

「ブタより、千倍おいしい」

 夏実は胸の前で手を振った。

「そんなこと言ったら、国じゅうのブタさんに訴えられますよ」 

「ブタさんたちは、何と言って訴えるのかな?」

「ブーブーって、百万頭の豚さんがデモ行進します」

「ああ、そりゃ、大変だ」

「でしょ?」

 秀雄は立ち上がって、夏実に手を差し出した。  

「じゃあ、行かなくちゃ」

「え? どこへ?」

「言っただろう、デザートを用意してるって。世界一のデザートを食べて、ブタさんたちに失礼のないような、おいしい女にならなくっちゃ」

「えっ? えっ?」

 男の大きな手に引かれ、夏実は店を出た。               











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