第159話――訪問


 両脇には黒のスーツで身を固めた屈強そうな男達がついている。

 

 エレベーターが開き、は足を踏み入れた。

 付き添いの者達も後から入り、ドアが閉まった。


 しかし、ボタンを押さない。


 ボディガードの一人が、内ポケットからかぎを取り出した。


 エレベーターのボタン下方にあった点検口のような扉の穴に、それを差し込んだ。

 そのふたが下へスライドし、中身が見えた。


 非常用停止ボタンの様な赤いボタンが見えた。

 ボディガードがそれを横にひねると、ようやくエレベーターは下降を始めた。


 長いだった。


 程経過した後に、エレベーターが止まった。


 扉が開いた。


 薄暗いフロアに足を踏み込むと、自動的に青白い昼光色ちゅうこうしょくの蛍光灯が、奥へと向かって、またたく間に廊下を照らし出した。


 ボディガードとともに、その人物は、まっすぐにのびる地味なグレーの地下廊をひたすら歩いていく。


 病院びょういんか何かだろうか。


 廊下には手術用のメスなどが入った銀色の容器を載せたワゴンが放り出されたように置かれていた。


 ガラス越しに、が目に入ったのか。


 廊下沿いにあった部屋から、青緑の手術着姿の女性や男性が、マスクをつけたまま出てくると、その人物に向かい、丁重に頭を下げた。


 通路の突き当たりに辿り着いた。


 病室だろうか。

 そのガラスから、中をのぞけた。


 窓の向こうにはベッドが敷かれてあり、その傍に人工呼吸器のような装置が見えた。

 その心電図を見ると、リズミカルに波形が刻まれている。


 もう一度ベッドを見た。


 そこには、誰も横たわっていない。


 次の瞬間だった。


 急に横から現れるように、ガラスに張りついた。


「ヒッ……!」


 それを見て、思わず両側にいたボディガードがった。


 しかし、中央にいたは全く驚いた素振りを見せず、じっとと向き合ったままだ。


「バイタルは安定しています」


 そばにいた医師が、語りかけた。


「これから調査を開始します。


 老人は、じっと中のものを見据えたまま、軽くほくそ笑んだ。


 同時に、ガラスの向こうにいたは、そのを震わせながら、おおよそ今まで聞いたこともないような奇声を、目の前で張り上げた。


                                     



                                    完                                                              

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