第158話――拘束


「ベッド?」


 急な話の展開に、松村まつむらは思わず訊き返した。


「ええ。気を失っている間に、私は誰かに救助されたようです」


「……誰かって?……」


 松村が尚も食い気味に問うと、由良ゆらは首をかしげながら答えた。


「それがわからないんです。でも、目を覚まして、すぐに気付きました。私は、救助というより、されたんだと。両腕を見ると、バンドで動けないように固定されていて」


 松村が再び怪訝けげんな表情を浮かべた。


「……何のために?」


 由良は少し考えを巡らせるような表情をすると言った。


「……これはあくまで推測ですが。おそらく、解放の儀式で、私は、を全身にかぶってしまったんだと思います」


 まだ何の事を言ってるのか、はっきりわからない様子で松村が目を丸くした。

 由良は更に言った。


そばにいた白衣の看護師が私に言いました。『から、仕方なく縛っているんだ』と」


 思わず松村は由良の顔をマジマジと見つめ始めた。

 それに気づいた由良は安心させるように、少し表情を緩めた。


「今は、もう、から大丈夫です。儀式の後の一時的なだったと。発作が治まると、バンドを外され、私は解放されました」


 拍子抜けしたように、松村は目をしばたたかせ、


「……解放されたって? 何処で? その場所は?」


 矢継ぎ早に問いかけた。

 由良はまた首を横に振った。


「ずっと目隠しをされていて。それを外されると、周囲にビルが立ち並ぶ新宿の景色が見えました。私はそこで下ろされ、彼らは黒のハイヤーで去って行きました。私は訳が分からず……。警戒のために、この一カ月間は家に戻らなかったんです」


 尚も松村は不可解な様子で訊き返した。


「発作が治まると……ってことは、彼らも、に詳しい連中ってことか? 」


「そこまでは……ただ……」


「……ただ?」


 由良は記憶を辿るように思い起こした。


「……バンドを外されて間もない時、部屋の外で会話が聞こえたんです。ドアに近づいて、開けようとしました。鍵がかかっていたので、耳を澄ましたんです。そしたら……」


「……そしたら?」


 由良は眉をひそめながら言った。


「『』と」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る