第150話――一カ月後


「なぜです!?」


 相川あいかわは、目の前にいる曽根そね部長に向かって思わず問い返した。


「世田谷署の方では、もう人員が足りているらしい。復帰したばかりの彼女を、あつかいにくいのが正直なところなんだろう」


「……だからって、なんでよりによって、?」


 相川は思い起こしていた。


 六年ほど前だが、世田谷の刑事課と管轄を巡り、少しめたことがあった。

 暴力団絡みの事件で明らかに区域的にはこちらの管轄だったのが、過去の事件との絡みで捜査半ば、そっくりそのまま世田谷署に持っていかれてしまった。

 その時の向こうの責任者が、九十九つくもだったのだ。


 わざわざ過去の因縁がある部署に移転させる理由は一つだった。


「……ちっ……厄介払いかよ……姑息こそくな真似しやがって」


 相川は上司の前にも関わらず、思わず本音を漏らした。

 部長は言った。


「ただ、いくら上の命令でも、うば捨て山扱いされたら、たまったもんじゃない」


 そう言って、目の前に書類を置いた。


「彼女が使いものになるかどうか。相川。お前がカウンセリングしろ」


「……いや、でも!」


 答えあぐねている彼に、部長は顔を近づけて言い添えた。


「遠慮はいらん。使えないなら、素直に上に報告するまでだ」

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