第148話――不顧


 その病室の片隅で、相川あいかわ刑事は何も言えず、ただ見守るだけだった。


 その死を告げた医師とともに。


 動かなくなった彼の両脇には、彼の実母と娘がすがりつくようにしてずっと涙を流し続けている。


 九十九つくも刑事の顔には、無数のしわが刻まれていた。


 相川が以前会った時とは、別人のように髪は真っ白になり、ほほも痩せ細っていた。

 あの威圧感のあった大柄な体は、今は二回りほど小さく見えた。


 相川は松村まつむら刑事から、その時の状況を全て聞いていた。


 九十九刑事が、ある青年を助けるために、その広場から彼を命懸けで引きづり出したと。


 自分の身をかえりみずに。


 その青年の名を聞いたが、彼は憶えていないと言った。

 にわかに信じがたい話だが、松村刑事も少しだけ、に足を踏み入れたらしい。


 そのせいで、記憶があいまいだと。

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