第143話――結界


『これも、時間の問題だ』


 男性の声がささやいた。


 由良ゆらは、そのに向かって口を開いた。


「……自らになったのか。を抑え込むために……」


 すぐさま由良は、その岩が、彼女を円の外に出さないためのだと理解した。


 そして、その下に、が眠っているということも。


 由良の胸の内に、その果てしない年月の重みがし掛かってきた。


 何千年というもの間、はすぐ隣に眠っていると、目に見えない攻防こうぼうを繰り返してきたのだ。

 死しても尚、彼女にをかけ続けた。


 声は言った。


『お伽話とぎばなしも、全てだ。彼女は、この地に降り立ってはいけない存在だった』


「……一体、何者なんだ?」


『わからない。何処どこから来たのかもわからない』


 を置くと、声は尚も言った。


『当時、の彼女は、私達と同じように思えた。しかし、それは大きなあやまちだった。そのは魔物だった』


「……口?」


『私達の仲間は、全て殺された。彼女のにとことんもてあそばれたあげく』


―――その女は、うそをつく――


 ふと、由良は夢の中で言われたその言葉を思い出した。

 男性の声は続く。


によって相手から力を奪い、それをり所に、彼女はを取り戻そうとした』


 聞いていた由良は、ハッと気づいたように顔を上げた。畳み掛けるように、声が言った。


、一瞬にして、仲間達はになった。最後に残ったのは、私だけだ』


 黙り込んでしまった由良に対し、は更にとどめを刺した。


『彼女が食い荒らした後に残るのは、だけだ』


 我に返った由良は、目を泳がせながら言い返した。


「でも……! 逃げるって何処へ? ……が外へ出たら、この世界はまたたく間に、破滅はめつへと向かっていく! 止める方法はないのか!?」


 沈黙の後、は、はっきりと言い切った。


『ない』


 突然だった。


 地面が激しく揺れた。


 思わず広場の方を向いた。


 由良は目をいた。


 まるで、で、切断された腕から血を噴き出しながら、が、大岩に向かって体当たりをしていた。

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