第140話――一瞬の出来事


 轟音ごうおんとともに、が後方へ吹き飛んだ。


「……!」


 何が起きたのか、わからなかった。


 は、倒れたままだ。


 由良ゆらは震えながら顔を上げた。


 すぐ頭上で、黒のタイツ姿の松村まつむらじゅうを構えていた。


 彼は由良ゆらに向かって声を張り上げた。


「ヘリが、こちらを確認した!」


 由良は目をしばたたかせると、頭を下げ、前方に目をった。


 土が露出したすぐ目と鼻の先で、が、仰向あおむけのままぐったりとしているのが見えた。


 動いている様子はない。


「今、ロープを下ろして隊員が下りている! 彼女を先に連れて行くが、すぐに戻る!」


 松村はそう叫ぶと、気を失ったままの高倉たかくら刑事を抱きかかえ、また森の中へと入っていった。


 由良は、また前を向いた。


 あまりに一瞬の出来事だったので、状況を呑み込めていない。


 目の前に、じゅうがない。


 彼がそれを拾い上げ、弾を放ったのだ。


 は、全く動いていない。


 全身も血だらけだ。


 ……。


 いや……。


 あれは、返り血だ。


 あらためて目を凝らした。


 弾の当たり方が斜めに入ったせいか。

 そのも確認できた。


 はっきりと。


 ……。


 弾は……


 どこに当たったのだ?


 由良はそれを確認できないまま、目を泳がせた。


 ふと、背後の方で複数の声が聞こえた。


 おそらく、ヘリの隊員が地上に無事着陸したのだろう。

 由良は少し安心したように溜息ためいきを漏らした。


 すると、今度はから何かが聞こえた。


「ア―――――」

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