第136話――残された時間


「……うぅ……」


 激しい頭部への衝撃で地面に倒れ込んだ石原いしはら教授は、起き上がれないままでいた。


 震えながら背後を振り返った。


 すぐそば

 広場のふちの向こう。


 木々の間に、が立っていた。

 その両手には、太い木が握られている。

 オレンジの防護服姿でフードだけを脱ぎ、汗にまみれたあらわにしていた。


 離れた距離からでも、九十九つくもはわかった。

 その人物は棒を投げ捨て、素早い足取りで広場をけるように木々の間を潜り抜け、こちらに近づいてきた。


 目の前で立ち止まったの顔を見て、九十九はらすように言った。


「……松村まつむら……」


九十九つくもさん! しっかりしてください!」


 松村まつむらは慌てるように屈み込み、九十九の両肩を掴んで抱き起こした。

 九十九は即座にその腕を掴み返して言った。


「……今すぐここから逃げろ……全員を連れて! もう、!」


「……時間が……ない……?」


 意味がわからず松村が問い返した、次の瞬間だった。


『ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ――――――』


 探知機の音が、再び広場全体に鳴り響き、二人が思わずそちらを向いた。

 すると、九十九は松村の両肩を掴み直して、尚も言った。


「……早く! みんなを連れて! ヘリに避難するんだ!」


 そう言って、プロペラ音が鳴る上空の方へ目をった。


 その時だった。


 多くの人が倒れている中。


 広場のちょうど


 そこだけ円を形どるように、があった。


 突然、その肌色の地面が、盛り上がった。


 が、出てきた。


 遠方にいた九十九と松村は目をらして、それを見つめ返した。


 動物どうぶつか、何か?


 そう思ったが、すぐに、だと気づいた。


 よく見ると、それは、だった。

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