第134話――救援


「あそこが頂上だ! 着陸できる場所はあるか?」


 ヘリの中で、相川あいかわ刑事がパイロットに呼びかけた。


「……ええっと……! 頂上に、広場が見えます!」


 慌てて相川は窓から双眼そうがんスコープを覗き込んだ。


 が、目に飛び込んできた瞬間、彼の表情が固まった。


「……嘘だろ……」


「今すぐ着陸しますか!?」


 前にいたパイロットが問いかけた。

 茫然としていた相川は我に返り、再びスコープを覗きこんだ。


「……いや、待て! 広場周辺に、人は見えないか!?」


「ここからでは木々に隠れて見えません!」


「クソッ! ……マイクを貸してくれ!」―――



「……どこのヘリだ?」


 九十九つくもは少し慌てた素振りで、ポケットに入れていた折り畳み式の双眼鏡そうがんきょうを広げ、上を見上げた。

 木々にさえられて上空が良く見えず、視界が開けた場所を探すため、彼は木々の間をって行った。

 ようやく光が差し込む場所を見つけ、そこで立ち止まり、再び双眼鏡を覗き込んだ。


 白いヘリだ。

 その機体に旭日章きょくじつしょうの紋を確認すると、彼は思わず声を上げた。


警察けいさつだ!」


 思わず両手を振ったが、相手に見えてるかどうかわからない。

 九十九は頭を下げ、


「広場に行かないと、此方こちらの姿は見えない!」


 離れた向こうにいる高倉たかくらに手で合図を送ると、彼女は手錠をかけられた石原いしはらの腕を掴みながら、そちらに移動しようと足を歩み始めた。

 その後を、由良ゆらも続いた。


 すると、頭上から、マイクを通した声が聞こえてきた。

 離れた後方にいた九十九つくもが振り返って、また空を見上げた。


『……こちら警視庁けいしちょう!……にいるなら!』


「……何だ? ……何て言ってる?」


 プロペラの音で、はっきりと聞き取れない。

 九十九はまた頭を下げて、ジェスチャーを交えながら声を張り上げた。


「ここからでは、相手が確認できない!」


 高倉たかくら相槌あいづちを打ち、前に向き直ろうとした。

 すると、また、


『――○○○○! ――今すぐ○○○! ――しろ――!』


 さらに何かを促すような大声が聞こえてきた。

 全員、また足を止めて上を見上げた。


「……?」


 九十九は目を細めながら、それに耳を傾けた。


『――今すぐ! ――○○○○○れろ! ――』


「今すぐ……?」


 ヘリの音が、こちらに近づいてきた。

 それに比例してマイクの声も、さっきよりは聞き取れるようになった。


『――○○○ら、○○○るんだ! ○○に○○○くな!』


 九十九は、注意深く耳を澄ませた。


 ようやく、が、はっきりと耳に入ってきた。


 彼は目を見開き、咄嗟に前に向き直った。


高倉たかくらぁぁぁぁ――――――――――!」


 前方にいた彼女が、足を止めて振り返った。

 目が合い、九十九はさらに叫び声を上げた。


「今すぐ引き返せ――――――――――――――――――!」


 高倉は眉をひそめた。

 思わず前に向き直った。


 その瞬間、が、目に飛び込んできた。


 広場には、およそ三十名の警察部隊、そして、それと同等ほどのオレンジ色のミナカ部隊が互いに向かい合って、まだ対峙たいじしている。


 はずだった。


 気が付けば、探知機たんちきのアラーム音は鳴り止んでいた。


 誰一人、


 まるで広場を埋め尽くすように、黒とオレンジの部隊全員が、


 すぐ背後からついてきていた由良ゆらも、即座に事態を察知した。


「足を踏み入れるな―――――――――――――――!」


 九十九の声が背後から聞こえ、咄嗟に高倉は踏み出しそうになっていた片足を宙で止めようとした。


 と同時だった。


 隣で手錠をかけられた石原いしはらが、狂人のような目つきでほくそ笑みながら、彼女を前方ぜんぽうへと突き飛ばした。


 前のめりに倒れ込んでいく高倉の背後から、石原いしはらの声が聞こえた。



高倉たかくら―――――――――――――――――――――!」


 不意を突かれた彼女は、土肌が露出した地面に、うつぶせになって倒れ込んだ。


 銃が手元から離れ、地面をすべりながら離れていった。


「……! 真矢まやさん!」


 傍にいた由良ゆらが咄嗟に駆け寄ろうとした。

 しかし、前方にいた石原いしはらの方が早かった。


 彼は、起き上がろうとした彼女の飛び下りた。


「……うぐっ!」


 彼女がうめき声を出すと、石原いしはらは背後から、そのショートの髪をむしり掴んだ。

 そして、そのまま肌色が映えた土の上に、彼女の顔を勢いをつけて押し付けた。


 狂気じみた笑みを浮かべながら、石原いしはらは、声を張り上げた。


「さぁ、だ! 全部吸い尽くせ――――――――――!」


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