第132話――永遠の夢
『これは……生きているんですか?』――
「
『彼女の声が聞こえるんです』
まさかと思った。
それまで、私しか聞こえなかったはずなのに。
それだけじゃない。
私は……
いつの間にか、彼女の声が聞こえなくなっていた。
それなのに、あの女は……彩乃は……
毎日のように聞こえてると。
私は、思った。
もしかして、……彼女は私を見捨てたんじゃないのかと……。
彼女にとって、私はもう用済みなんじゃないか……。
いや……! そんなはずはない!
もう一度、彼女の声が聞きたかった。
彩乃がいなくなれば……
また、彼女が私に語りかけてくれると。
あの声を聞くことができると!
――
そう思い……背後から
二人とも茫然としながら、ただただ銃を構えてるだけだ。
「……理解できない? なぜ、こんなことができるのか? って?」
石原は溜息をつき、呆れたように首を横に振ると、手錠で繋がれた手で
「そっちの彼なら、わかるだろ?」
由良が警戒するように眉を
「……
石原は質問をいなされたことに対し、少し不機嫌な表情を浮かべながら答えた。
「……あれは、
手錠をかけられた両手を広げ、
「だって、あそこに映っているのが自分なら、今ここに立っているのは誰なんだってね?」
「……でも、
銃を構えたまま
「そうだ。彼女は私の
九十九の脳裏に、拳を複雑骨折した山下正美の遺体が甦った。
石原は話を続けた。
「山下も彼女の呪いにかかっていたから、自分では感情や力が制御できなかったんだろう。
教授は、また
「もしかして、自分は、『いつも見られているんじゃないか』と。そして、ずっと気づかずに持たされていた石をその場で投げ捨てた。発作的に怯え、広場が映っているデータも粉々に破壊したらしい」
銃を向けられている事を完全に忘れているかのように、石原は刑事二人の方に向き直った。
九十九と高倉の顔を交互に見つめながら、尚も
「以前の彩乃ではなくなっていた。自分のやってきたことに罪悪感を抱くようになっていたんだ。自分を殺した張本人である私のところにわざわざ、電話をよこしてきたんだよ。『あなたも操られてるだけだ』ってね」
石原は呆れたように首を軽く横に振り、鼻で
「彼女と会話ができた
ふと、
あれは、……彼女にできる精一杯の抵抗だったのか……。
そして、あの部屋に、石はなかった。
彩乃がその呪いから逃れるために、処分したのだろうか。
「石が送り出すって……どこへだ?」
石原教授は彼に向き直り、笑みを浮かべた。
「彼女が欲しがっているのは、人間の魂だ。魂には、計り知れない可能性が秘められている」
「……可能性?」
「ああ。無限のエネルギーが秘められているんだよ。人の魂は死ねば、あの世へ行く。でも、魂の本当の姿を通常見ることは不可能だ。
「……それを見るために、彼女は石を持たせたのか……」
由良の言葉に
「彼女に見られた魂は、彼女の中で永遠になる。
半分じゃない……一つになった本当の魂だ」
突然、聞いていた
九十九の表情を見て、それに気付いたのか。石原は彼に笑いかけて言った。
「そうだ。
面白がるように唖然としている刑事二人の顔を眺めて
「でも、一瞬だけだ。それを我慢すれば、彼女の一部になる。あの世に行かずに、彼女の中で生き続けるんだ。彼女の優しい嘘で、永遠にね」
ずっと、嘘にまみれた夢を見させ続けられる。
もう、死んでいるにも関わらず……ずっと……。
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