第130話――生贄
「彼女に触れたものは、もう彼女のものだ」
その内容は、彼らの理解の
「……
「いや、……最初は半分だけだ」
「……半分?」
一呼吸置くと、石原はまた語り始めた。
「人は死んだ後、すぐにあの世に行くわけじゃない。この世でやり残したこと、未練を残した魂などは、ここにまだ留まろうとする。中には、自分がまだ死んでないと信じきっている者も多い。彼女は、そういう者達の要望に応えているだけだ。泥でゴーレムを作るように、彼女は、人の魂を使って優しい嘘をつく」
「……でも、永遠に続くわけじゃない」
由良が話を遮るように言うと、石原は口元に仄かな笑みを浮かべながら答えた。
「ああ。そうだ。彼女の嘘も、四十九日経てば消えてなくなる。亡くなった人間の、もう半分の本当の魂が、自分を迎えにくる。その時になって初めて、本当に亡くなった直前の事が甦る」
話を聞いていた
被害者達が、ツアーに行った約一ヶ月半後に、全員死亡していたことを。
病室の中で……。
まさか……!
あの時、自分と目があったのは、山下正美の、本当の魂の姿だというのか……。
遺体が消えてなくなったのは、全て嘘だったからだとでも……?
そういえば……
……!
あれは、まさか……本当は……自分達が、この広場で死ぬ直前に話していた光景を思い出した……?
ハッと我に返り、何かに気付いたように彼は顔を上げた。
「……あれは? 彼女達が持っていた、あの石はなんだ?」
「あれは、彼女の目だ」
「……目?」
「一つの目で迎え入れ、もう一つの目で送り出す」
防護服姿の
「……彼女が持たせるのか?」
由良の問いかけに、石原は軽く
「そうだ。四十九日の間に本当のことを思い出されると、彼女にとっては都合が悪い。送り出せないからだ。記憶を封じこめるための石でもある」
すると、教授は深く溜息をつき、
「今回も全て上手くいく予定だった。しかし
反省するように首を少し横に振った。
「……
高倉が銃を構えたまま問いただすと、石原は無表情のまま彼女の目をジッと見据えて言った。
「彼女が戴くところを」
「……
思わず高倉が顔を
由良が横から言い添えるように、その大岩を見上げながら言った。
「被害者達全員が死ぬところを撮ったんだ。みんな、この岩に触れた」
石原教授はまた
「彼女の積年の思いが、この岩に集結されている。これは、彼女そのものだ」
教授は、高倉の顔を見ながら、
「……
そう言って
「あんたが、ここに連れてきたのか……。彼女達を、生贄にするために」
防護服姿で暑いせいもあるのか。由良が額に汗を滲ませながら聞き返した。
『
「私が? まさか。こんな見知らぬオヤジが誘って、誰がついて来る?」
すると、黙り込んでいた
「……
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