第129話――誘う声
『危ない』
どこからともなく、その声が聞こえてきた。
空耳なのかと思って、その大きな岩に近づいた。
すると、
『触れると、永遠に出られない』
と、また声がした。
幼い女の子の声だった。
私は周りを見渡した。
ふと、人の気配がして、私は木陰に隠れた。
警官が十数名やって来た。
私はすぐに思った。
倒れているこの人達を、探しに来たんだと。
私は安心して、木陰から出ようとした。
しかし、信じられない光景を見た。
彼らは、倒れた人達を全く気にも留めず、捜査を続けた。
あたかも、そこに存在しないかのごとく。
訳がわからなかった。
そして、少し時間が経った後だった。
大岩の指紋を調べていた捜査官の一人が、急に苦しみはじめた。
そして、それに続くように他の捜査官も。
私は唖然とした。
そこにいた全員の
気が付けば、そこに立っているのは自分だけだった。
『誰にも言っちゃいけない。言うと永遠に出られない』
女の子の声が、私に言った。
まるで、幼い弟を、怖いお伽話で躾ける姉のように。
あまりの恐怖に、
怯えながら、何とか私は祖父の家に辿り着くことができた。
家に帰った後も、夜も眠れずびくびくしていた。
そりゃ無理もない。
目の前で、人が大勢死んだのだから。
しかし、何日経っても、警察官が行方不明になったというニュースは耳に入ってこなかった。
私は幻を見たのか……
そう思ってるうちに、一カ月半が過ぎた。
私の恐怖も薄れ、その事実を忘れかけようとしていたある日のことだった。
あの山に捜索に入った警察官が、次々と原因不明の病で亡くなったという知らせを聞いた。
聞く話によると、髪の毛は真っ白になり、体はまるで老人のように変わり果てて死んだと。
そう。
私があの日、この場所で見た光景と全く同じだった。
それから私は本当の事が知りたくて、またこの山に登った。
広場に着き、大きな岩に向かおうとした。
すると、また、
『来るな』
と言われた。
それからだ。
彼女と会話をするようになったのは。
彼女が、この私をパートナーに選んだという事も。
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