第127話――最後の力


 石原いしはら教授は由良ゆらをじっと見つめると、ようやく口を開いた。


「……そうだ」


「彼女……? 一体……何の事を言ってる!?」


 九十九つくもが由良に向かって大声を張り上げた。



 由良は夢の中で聞いた、その言葉を口に出した。


「……何だって?」


 九十九つくも高倉たかくらは尚も訳が分からない様子だ。


 石原教授は由良の顔を観察するように眺めると、言った。


「君が、の言ってた人物か」


 そばに立っていた高倉が警戒し、また銃を構え直した。

 由良ゆらが教授に向かって言った。


「山下さん達は、本当は、のか……」


 数秒のの後、石原は表情を変えないまま軽くうなずいた。


「そうだ。彼女に触れたものは全員死ぬ。


 聞いていた九十九がまだ状況を理解できずに、興奮した声を上げた。


「……ここで死んだだと? じゃあ……あの……あの別の場所の遺体は? あれは……あれは、一体、誰なんだ!?」


 すると、石原教授は手錠を繋がれたまま、の方を軽く指差して言った。


「あれは、彼女のだ」


 九十九と高倉は思わず眉をひそめた。


「……うそ? ……何を言ってる?」


 ――その女は、嘘をつく――


 由良ゆらは、夢の中で、が言った言葉を思い出した。


 石原教授は、ゆっくりとした口調で語り始めた。


「……彼女は、兄達を本当に心から尊敬していた。自分には彼等のような『治める才』はなかったから。でも必死にそこからならい、学び取っていたんだ。そして、ついに、その力を与えられる日がやってきた。彼女は、どれだけの喜びと期待をもって、この仏獄に来たことか……」


 石原は狼狽うろたえる三人の顔を眺めながら話を続けた。


「しかし、いつまで経っても兄達は来ない。だから声を出して呼ぼうとした。でも、いくら全身に力を込めても、出せなかったんだ」


 九十九と高倉は、まだ何の事を話しているのかわかっていない様子で、表情を強張らせたままだ。


「彼女は恐怖に震えた。一人、この淋しい誰もいない山奥で。そして、広場から出ようとした。突然、滝のような大粒の雨が降り出し、彼女の体に激しく叩きつけた。彼女は慌てて反対方向から出ようとした。すると、ものすごい突風が起こり、彼女を広場の中央へ引き戻した。それでも必死に逃げ道を探そうと、広場の一番奥から外へ出ようとした。今度は、炎が燃え盛り、彼女は全身に火傷を負った。その炎に触れた瞬間に、わかったんだ。その三つの呪いの中で、一番憎しみを感じたのが、だった」


 石原教授は、由良ゆらに向き直って言った。


「彼女は悟った。が兄達をたぶらかし、自分を罠にめたんだと」


 目を見開いて、尚も強く言い放った。


「彼女が最後に兄達からならい学び、授かった力。それが、だ」


 その場が静まり返った。


 九十九は旅館で、女将から聞かされた神話を思い出した。


(……まさか……本当に起こった事なのか……)


 しかし、とてもじゃないが、にわかに受け入れられる内容ではない。


 由良ゆらが険しい顔つきのまま、教授に向かって問い返した。


「でも……何故、あんたが?」

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