第125話――大岩の傍で


 広場にいた警官達けいかんたちは、一斉に振り返った。


 見ると、オレンジ色の防護服ぼうごふくを来た男達が銃やライフルを持って広場に入って来た。


 九十九つくも高倉たかくらはそれを見て、また木陰に身を隠した。


「遅かったな」


 弓削ゆげがニヤけながら手錠をかけられた手元を、向こう側にいるに見せた。


 二十人以上は、いるだろうか。

 警官達は近づいてくる敵に向かって、一斉に銃を向けた。


「……まずい……まずいぞ。こんなことやってる場合じゃない……。こんなことやってる場合じゃないんだ!」


 由良ゆらは怯えた声で、傍にいた警官の両肩を掴んで焦りの声を上げた。


「離れてなさい!」


 力を込めて突き放された由良は、地面にうつ伏せになって倒れた。

 顔を上げると、目の前にアンプ型の装置が見えた。


『ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ――――』


 鼓膜こまくに突き刺さるような警報音が、目の前でずっと鳴り響いている。

 由良は思わず仰け反って、尻をついたまま後じさった。

 地面に何か落ちているのが目に入り、それを手に取った。

 リモコン型の放射線測定器だった。

 

 その時だった。

 突然、バリバリっという激しい音とともに、雷鳴らいめいが鳴り響き、その場にいた全員が空を見上げた


 気づけば、さっきよりも雲がどす黒くなっている。

 再び、轟音ごうおんとともに空全体に雷紋らいもんが明滅を繰り返した。

 

 両隊員達が上空に目を奪われている隙に、由良ゆらは広場から抜け出した。


 を取り囲むの部隊。

 数で言えば、同等ほどか。


 二つの部隊が睨み合い、膠着こうちゃく状態が続いた。


 九十九と高倉も、息を呑みながら木陰で銃を構えたままだ。

 すると、背後からが聞こえてきた。


「ザクッ……ザクッ……」


 二人は耳を澄ませた。


 の方向から聞こえてくるようだ。


 九十九は高倉に、目で合図を送った。

 二人は銃を構えながら、ゆっくりと林の中を歩き始めた。


 その岩が木々の間から見えてきた。


「ザクッ……ザクッ……」


 どうやら、聞こえてくるようだった。


 九十九は左手を上げ、高倉に背後を援護しながらついてくるようにジェスチャーを送った。


 その音を辿り、大岩のちょうど裏側に行き着いた。


 木々の間から、姿が見えた。


 灰色のフードを頭にかぶった人物が、此方こちらに背を向けていた。

 シャベルを持って土を掘り起こしているようだった。


 九十九は、背後から声をかけようとした。


 が、その足元を見て、思わず目を見開いた。


 らしきものが、見えた。


 ただ、、はっきりとは確認できなかったが。


 はえがそれを埋め尽くすようにたかり、ものすごい悪臭が鼻をついてきた。


 九十九つくもは咄嗟に銃を構え直し、その人物に向かって叫んだ。


「手を上げろ!」


 しかし、まるで耳に入っていないかのように、その人物は穴を掘り続けている。


「今すぐシャベルを置け! そこにひざまずくんだ!」


 ようやく、その人物は動きを止めた。


 ゆっくりとシャベルを土の上に突き立てると、両手を上げ、地面にひざをついた。


 声を聞きつけた高倉が、追いかけるようにやってきた。


「……!」


 彼女も即座に銃を構え、その人物に向けた。


「…………嘘でしょ…………」


 信じられない光景だった。


 はえがたかり、悪臭を漂わせながらうじが湧いたと思えるものが、三体……、いや、それ以上か。


 立ち並ぶ木々の間に、


 九十九は銃を向けたまま、手を上げているその人物にゆっくりと近づいた。


 すぐそばで立ち止まり、前方に回り込んだ。

 そして、そのかぶっていた灰色のフードを、片手で払った。


「…………なぜ…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る