第121話――対象物の正体

 オレンジのフードを脱いだばかりで汗まみれの安田やすだ社長は、背後から弓削にじゅうを突きつけられ、広場の中央へ促された。


 何かを載せたキャリーカートを引っ張っている。

 半田義就はんだよしなりが立っている傍で立ち止まると、社長はカートに被せてあったビニールを外した。


 その位置で、彼は折り畳み式のスタンドデスクを広げた。

 そして背負っていたリュックを下ろし、そこからノート型のパソコンを取り出し、デスクの上に置いた。


 次に、キャリーカートに載っていた長方形のギターアンプのようなを別の隊員と二人で持ち上げ、半田の立っているすぐ傍に置いた。

 その機器はちょうど胸の高さぐらいあり、幅は五十センチメートルぐらいか。


 次にUSBコードでパソコンとその装置を繋ぎ、PCを立ち上げた後、黒い装置の右上のスイッチを入れ電源を入れた。

 すると、装置の天面部に隠れていた幅三十センチメートルぐらいのが自動的に起き上がった。


 安田社長はパソコンのアプリケーションを開いた後、装置の電源横にある緑色のスイッチを入れた。

 すると、装置のモニターにが写り始めた。


 を写しているようだった。


 このアンプのような装置の下には、ボーリングのような伸縮型の大きな筒が内蔵されていて、その筒の先端にはミクロカメラがついていた。

 

 筒はある一定の深さまで延びきった後、今度は筒の内に収まっていた一回り小さな筒が延びて地中を映し出し、伸び切るとまた内に収まっていた筒が延び切り、また内に収まっていた筒が――


という具合に、地中へ潜れば潜るほど、筒が細くなっていくという仕組みだった。


 そしてカメラとともにがついており、そのセンサーは安田やすだ社長独自で開発したものだった。


 その先端からはX線のようなレーザーを発し、それらの成分や、それが存在していた年代、そして埋まっている物の立体図、温度まで計測できる。


 温度変化などを感知すると、アンプ型装置の前面部分についている横向けのイコライザーが点灯し、右に振れ、ノイズ音で知らせる。


 イコライザーの半分までは、標準値で緑色。

 それを越える、つまりは温度、湿度、気圧などがあった場合に、イコライザーのメーターは半分を上回り、に変わる。


 ノイズ音が発生するとボーリングの筒は自動的に止まり、モニターには、地中に潜むそのがズームアップされた映像が映し出される。

 ただ、また筒を動かすには、パソコンにより手動で起動させなければいけない。


 安田社長はPCのキーボードを叩いた。

 筒が再び動き始め、しばらくすると止まり、映像を見て、また動かすの繰り返しをしているうちに、何かに触れたのがわかった。


 ノイズ音がかなり大きく鳴り、初めてのイコライザーが点灯した。


「……これは何です?」


 そばで銃をつきつけていた弓削ゆげが問いかけた。


「……カメラとセンサーで、少し分析してみる」


 社長が答えると、


「決して壊さないでください」


 弓削は語調を強め、注意を促した。


「ああ……今、成分を調べてるところだ」


 社長は声を少し震わせながら、PCのキーボードの速度を速めた。

 弓削がイライラし始めているのが目に入り、彼は額に汗を滲ませながら、さらにタイピングの速度を速めた――


 数十分経った後だった。


 社長は深く溜息ためいきをついた。


「……終わった。検索結果が出たぞ……」


 安堵したように言った。


「……で? どうなんです?」


 弓削が目を細めながら問い直した。

 すると社長は小刻みにうなずきながら、唾を呑み込んだ。

 彼は言った。


「これは、だ。石でできた。間違いない。地層や成分からいって……およそ……、いや……かもしれない」


 すぐ傍でその話を夢中で聞いていた半田義就はんだよしなりが、弓削の方を向いた。

 彼は引きった笑みを浮かべて言った。


「……間違いない。……ここは、の墓だ。…………。ついに……ついに、探し当てたぞ――――!」


 広場に歓喜の声が響き渡った、その時だった。


「違う!」


 背後から聞こえた声に、その場にいた全員が振り返った。

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