第120話――辿り着いたら最期

 

 誰がそんなところにほどこしたのだろう。


 広場ひろばが見えた。


 その部分だけ木、いや、草一本も生えていない。


 楕円だえんではなく、本当のだった。


 まるで緻密ちみつに計測されたかのような。


「……何なの、これ……」


 直径で言えば、五十メートルほどの広場だろうか。


 空を見上げると、雲が立ち込めていて薄暗い。


 二人は、あやしくも明媚めいびなその調和に、思わず目を奪われてしまった。


 広場のに目をった。

 九十九つくもは、その場で立ち尽くしてしまった。


 何度もビジョンで見た光景。


 目の前にある大岩は、それと全く同じだった。


『辿り着いたら最期』


 その言葉が、頭の中でよみがえった。


「そ……そんな……」


 彼は思わず声を震わせた。


 突然、どこからか、


「ザクッ……ザクッ……」


という音が聞こえてきた。


 二人は周囲を見渡した。


「……誰かいる」


 九十九が我に返り、警戒を促した。

 二人はその場で立ち止まったまま、その音に耳を澄ました。


「……九十九さん……あれ……」


 高倉たかくらが前方を指差した。

 九十九はそちらに顔を向けた。


「……!」

 

 広場を挟んで真向いの木陰の中から、オレンジの防護服が見えた。

 九十九と高倉は、思わず木々の中に身を隠した。


「ここだ! あったぞ! 目的地だ――!」


 銃を持った男は後ろを振り向いて、歓喜の声を上げた。

 その後を、一行が続き、広場に足を踏み入れた。

 すると、その者達は次々と防護フードを脱いでいった。


 九十九は、咄嗟に左ポケットを探った。

 これは、取られていなかったようだ。

 折り畳み式の双眼鏡そうがんきょうを取り出し、広げてのぞき込んだ。


 見覚えのある男が、顔をあらわにしたのがわかった。


「半田……」


 半田義就はんだよしなりは目をつぶりながら、ゆっくりと足を進めて行き、ちょうど広場の中央辺りで立ち止まった。


 するとかがんで、ひざまずき、両手を地につけた。

 頭を地面に近づけると、ゆっくりと右耳を当てた。


 狂気じみた様子で彼は言った。


「……ああ……聞こえる……はっきりと聞こえるぞ! ! ここだ! ここで間違いない!」


 廃墟ホテルで見た彼とは、全く別人のようだった。

 その顔は、何かに憑りつかれたように歓喜に満ち溢れていた。

 

 その集団から少し離れて立っている人物が目に入った。


 フードを脱いだ弓削ゆげがその男性に近づいていき、彼の手首を縛っていた縄を解くと、あらためてじゅうを突きつけて言った。


安田やすだ社長、出番ですよ」

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