第119話――危険値


「下だ! 下へ行け!」


 九十九つくも高倉たかくらに向かって叫んだ。


「……! さらに音が強くなってます!」


 声が裏返りながら、高倉は言い返した。

 山を下れば下るほど探知機の反応が強くなってきた。


「くそ……! 一体どうなってる! 戻れ!」


 もう一度来た道を引き返すように、山を駆け上がって行った。

 少しだけ反応が弱まった。


「……! 上です! 上に行くほど、数値が減っています!」


 高倉は声を張り上げた。


「急げ! まだ音は消えてない!」


 二人は枯れ枝に足をとられながらも、全力できつい勾配こうばいを上がり続けた。


「まだか!」


 苛立いらだちながら九十九が焦りの声を上げた。


「数値が止まったまま、減りません!」


なんでだ!」


「わかりません! 頼むから減って!」


 坂を駆け上がりながら、探知機に向かって懇願こんがんするように叫んだ。


「クソッ!」


 被爆の恐怖を必死に頭の中でき消しながら、最後の力を振り絞ろうとした。


 その時だった。


 突然、探知機の音がピタっと鳴り止んだ。


「……! 止まりました!」


 高倉が目を見開きながら、何度もその機器を見つめ返した。


 二人は足を止めた。


 一気に全身の力が抜けるように、その場に倒れ込んだ。


 九十九は肩で息をしながら、傍に立っていた大木にもたれかかった。


 しばらく、二人は目を瞑っていた。


 ようやく息が落ち着き始め、九十九はゆっくりと目を開けた。


「…………おい……」


 地面にうつ伏せのままぐったりと倒れ込んでいる高倉に声をかけた。

 彼女はゆっくりと顔を上げ、九十九の方を向いた。


 彼は目が合うと、促すように左を向き、軽くあごを動かした。

 高倉はその視線の先を追いかけた。


「……!」

 

 土がきだしになっている地面が見えた。


 茫然ぼうぜんとしながら二人は起き上がった。


 そして、ゆっくりとそちらの方に歩んでいった。


「……これは……」

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