第118話――探知機反応


 九十九つくも高倉たかくらは依然として背後から銃をつきつけられ、山の斜面を登らされていた。


 始めは微かに山道らしきものもあったが、数十分もすると、途中で完全なになった。


「ど……どうするんだ? 道が切れてるぞ!」


 九十九が両手を上げながら後ろを振り返った。

 すると、銃を構えた男達の後についてきていた防護服姿の半田義就はんだよしなりが、辺りを見回した。


「静かに」


 彼はその場で立ち止まり、目をつぶった。

 しばらく、一行の間に沈黙が流れた。


 突然、半田は目を開け、


「こっちだ! 声だ! だ! 確かに聞こえる!」


 と、前を行く者達を制するように叫んだ。


 九十九と高倉は後ろから銃で促され、進路を変更させられた。

 足元を見ると、倒木や折れた木の枝などが散乱している。

 木々が立ち並ぶ中を、二人は強制的に歩かされていった。

 

 ふと、足に何か当たった。

 高倉たかくらは下を向いた。

 白くて固いものの上に、足が乗っかっていることに気づいた。


「ヒッ!」


 思わず飛び上がるようにった。


 人間の頭蓋骨ずがいこつだった。

 土に埋まっているが、三分の二ほど顔をのぞかせていて、はっきりとわかった。


「止まるな!さっさと歩け!」


 男が銃を構え直した、その時だった。

 突然、


『ビビビビビ――』


 というノイズ混じりの音が鳴った。

 九十九と高倉は、思わず振り返った。


放射線ほうしゃせんの数値が急に強くなった! 気をつけろ!」


 銃を向けている男が、後ろを向きながら叫んだ。

 左脇に差してあるリモコン型の測定器を、ちらちらと見ている。


 九十九つくもは、


 近くに落ちていた太い木の枝を掴み、背後から隊員の右脇腹目がけて殴りかかった。


 男はうめき声を上げ、思わず銃を下に落とした。

 九十九は、すかさずそれを拾い上げた。

 ひざをついてもだえている男を背後から押さえつけ、銃をつきつけた。


「動くんじゃない! こいつを撃つぞ!」


 下にいたオレンジ色の隊員達が、一斉に銃を向けた。


「じっとしてろ!」


 もう一度警告すると、九十九は左手で銃をつきつけたまま、男が背負っている長細い緑のバックパックを取り上げた。


 次の瞬間だった。


 抑えつけていた男が後ろ向きのまま、捨て身で体当たりしてきた。

 防護服の頭部が九十九の顔面に当たり、彼はその場に仰向けで倒れた。


 九十九の鼻から血が流れた。

 彼の手から銃が離れ、地面に落ちた。


 男がいながら、その銃に手を伸ばそうとした。すると、背後から倒れたまま九十九が男の体をまた押さえつけた。


高倉たかくら!」


 左方向にいた高倉はよろめきながら、此方こちらに歩み、銃を拾い上げた。

 すぐさま下でライフルを構えている男達に向けた。


 隊員の一人が、それを見て発砲してきた。

 弾は当たらず、後ろの木をかすめていった。


 高倉も応戦し、発砲した。

 弾は大きくれた。


 九十九は男と揉み合った。

 男は防護服で身動きが取りにくいせいか、さっきとにまた拳を食らった。

 咄嗟に九十九から手を離し、地面の上で転がりもだえた。


 九十九はその隙にリュックを奪い、男の左腰のホルダーから放射能探知機ほうしゃのうたんちきを抜き取った。

 その瞬間、敵が九十九に向けて発砲した。


 彼は頭を下げた。

 弾は後ろの木に当たり、ね返った。


 高倉が援護するように、発砲した男に向かって撃った。

 男がそれをよけようとしてバランスを崩し、斜面からずり落ちていった。


 その隙に、九十九は上方の木陰に隠れ、リュックの中を探り始めた。


防護服ぼうごふくは! どこだ! ……くそっ! ないのかよ!」


 手探りでいろんなものを引っ張り出していると、リュックの底の方にが見えた。

 見覚えのある警察仕様のリボルバー銃が入っていた。


 高倉たかくらじゅうだ。


 素早く弾倉だんそうを開けると、弾が入ったままだった。

 手錠てじょうも見つけ、れらを手に取ると、防護服を探すのを諦め、リュックを下に放り投げた。


 反射的に敵が、そのリュックに向けて発砲した。

 九十九は木陰から顔を出して応戦した。

 相手は屈んで、それをかわした。


 そのすきに、九十九は高倉の方に走っていった。

 男から奪った探知機と手錠を彼女に渡し、


「援護する! ここから早く去らないと、二人とも被爆するぞ!」


 声を上げると振り返り、また発砲した。


 高倉は探知機の反応を見ながら当てもわからず、山の中を早足に駆けて行った。

 九十九が、それに続いた。

 その後を、オレンジの防護服の男達が追おうとした。


「深追いするな! こっから先は放射線だらけだ。奴らも、わかってて入って来れない! 計画通り目的地へ進め!」


 防護服越しに弓削ゆげが、追いかけようとする隊員達に向かって列を崩さないよう大きな声で制止した。

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