第117話――白い人物


 不気味な人形が敷き詰められた棺桶かんおけを見つめた後、由良ゆら仏獄ぶつごくの方を向いた。


 登山口付近に、あの二つのが目に映った。

 ふと、彼は『日誌』の中の記述を思い出した。


『診断の結果、「急性放射性症候群きゅうせいほうしゃせいしょうこうぐん」と診断され、入院。作業隊から離脱――私達全員も被爆ひばくの可能性があり、全員下山。検査を受ける』


 慌てて由良はその場で背負っていたバッグを下ろし、中からを取り出した。


 黄ばみかかった白いパリパリのを目の前で広げた。


 数秒間迷うと、彼は破れないように慎重にその中に体を通し、四角いフードを被った。

 淀んだ臭いが思い切り鼻を刺激し、思わず息を殺し、顔をしかめた。

 徐々に胸の内から恐怖が湧きあがってきた―――


 こ……こんなもので本当に防げるのか。

 酸素ボンベもマスクもない。靴だって……普通の長靴だ。

 これでは、まるでじゃないか。

 しかし、ないよりはましだ……。

 いや……! そういう問題じゃないだろ!


 そんな葛藤を心の内で繰り返していると、ふと、山道の入口あたりに何かが見えた。

 由良は茫然とした。


 遠目からでも、それは、だとわかった。

 離れていて顔ははっきり見えなかったが、のような頭をし、を着ていた。


 こちらをじっと見つめている。


 咄嗟に由良は、その子の方に歩み始めた。

 すると、子供は木々の間を潜るように山の奥へと登って行った。


 慌てて由良は見失わないように、後を追いかけた。

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