第116話――警戒区域


「もうすぐ放射線発生区域に入る」


 オレンジの防護服をまとい、その下にゴーグルと酸素ボンベのようなマスクをつけた完全防備の弓削ゆげが、隊列の中央で隊員達に指示していた。


「おい!」


 姿九十九つくもは両手を上げたまま、後ろを振り返った。


「お……俺たちのは?」


 彼らは防護服ぼうごふくを着た男達に銃を向けられていた。


「あいにく人数分しかありません。あなた達は予定外の来客でしたから。まぁ、だから、特にいらないでしょう」


 全く気にも留めていない様子で言うと、弓削はあごで促した。


「早く行け!」


 男達は九十九と高倉に銃をつきつけて、前を歩くように指示した。

 二人は両手を上げたまま前に向き直った。


 木々が立ち並ぶ薄暗い山の中を、枯れ枝を踏みつける音を鳴らしながら歩いて行く。


「……高倉、じゅうは?」


 九十九は手を上げたまま後ろに聞こえないようにささやいた。


「……取られました。すいません……」


 高倉が申し訳なさそうに答えると、九十九は目を瞑り、溜め息をこらえた。

 彼女は小声で言った。


「……彼らの話では、松村まつむらさんの娘さんは生きていると……。まだ彼らにとらわれているみたいです」


「そうか……」


 九十九は少しだけ安心するように呟くと、別の問いかけをした。


「……由良ゆらを見たか?」


 その問いに少し驚いたように目を開くと、


「え? まさか……由良さんを追いかけてここまで来たんですか!」


 高倉が思わず声を上げた。


「おい! 口を閉じて黙ってろ! さっさと歩け!」


 背後にいた大柄な男が銃を構え直して、声を荒げた。

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