第115話――謎の動画


九十九つくも刑事によると、その画像が道標みちしるべになる」


 相川あいかわ刑事は防弾チョッキを着ながら、画像処理班の拓松たくまつに向かって言った。拓松は少し戸惑った様子で反論した。


「まだ完全に解析できていません。このままでは不十分かと」


「一刻を争う。山の中での唯一の手がかりだ。移動しながらの解析は可能なのか?」


 相川が問い返すと、拓松は目をしばたたかせながら答えた。


「ええ。パソコンと機材さえあれば」


 即座に相川は言葉を返した。


「お前もヘリで同行して部隊を援護しろ」


「……はい!」


 新米の彼は認められた事が嬉しかったのか、大きな声で返事をした。

 が、すぐに神妙な顔つきで言った。


「相川さん。捜査員全員に。警告を」


「……岩?」


 思わず怪訝けげんな表情で聞き返す。


「映像の修復途中だったんで、報告が遅れたんですが。この動画どうがを」


 拓松はラップトップの画面を此方こちらに見せた。


 周りは木々で囲まれた広場。

 その奥に、があった。


 遠方ながらも、女性二人がそこに手をかけているのがわかった。

 ピースサインをして記念撮影をしている様だ。


『ちょっと、驚かせてやろう』


 この動画を撮影している本人の声だろうか。


 画面は、また森の中を映し出した。

 映像がブレ始め、その中を歩いているのがわかった。

 途中で横を向くと、木々の間から、また広場を映し出した。


 何かに気付いたように、突然、画面が止まった。


 さっきの大岩が見えた。

 しかし、先ほど映っていた女性たちはいない。


『あれ……? どうしたの……みんな?』


 いぶかしげな動画主の声が聞こえると、また画面が動き始めた。

 広場の縁に沿うように木々の中を歩き、その大岩の方に向かっているのがわかった。


『あ……』


 角度が変わったせいか、さっきの二人の他に、もう一人、広場に入って来たのがわかった。

 距離が離れているが、見た感じ女性だろうか。

 その人物が、こちらに背を向けたまま大岩にもたれかかるように両手をついたのが見えた。


『あれって? …………さん?』


 すると次の瞬間、その女性がひざから崩れるように地面に倒れた。


『え? ……ちょっ! 大変!』


 撮影主が走り出したのか。

 激しくブレながら動いた瞬間、


『……! きゃっ!』


 つまづいたのか、ガサガサッという音と共に携帯が地面に落ちたのがわかった。


『……いって……つ……』


 その声が聞こえると、起き上がったのか。

 またガサつく音が聞こえ、落ちた携帯を拾い上げたのがわかった。


 画面が上を向き、が、すぐそばに見えた。


『ちょっと! 大丈……』


 広場のを映し出した。


 そこに、人が倒れていた。


『ひっ!』


 驚きとともに、携帯を落としたのがわかった。

 画面がひっくり返って、地面から上を見上げるようになり、木々の隙間から空が見えた。


 次の瞬間だった。


『きゃあぁぁぁぁぁ――――――!』


 女性の悲鳴が聞こえた。

 その後に、激しい息遣いが続いた。


 慌てて携帯を拾って、ポケットに入れたのだろうか?

 画面に手が写り、ガサガサっという音の後、画面が暗くなった。

 そのまま画面が揺れ続けると、映像はそこで切れた。


「……なんだ、今のは!?」


 見ていた相川あいかわ刑事が思わず声を上げた。


 拓松たくまつは動画を再生し直した。

 人が数人倒れている所まで早送りして、静止ボタンを押した。

 彼は言った。


「倒れている人達を見てください」


「え?」


 画面に向き直った途端、相川あいかわは唖然としてしまった。


 そこに倒れているのは、白髪で体が痩せ細った年配の老人と言える女性ばかりだ。


「……これは?」


 眉をひそめたまま相川が訊き返すと、拓松は動画を巻き戻した。

 最初の遠目から女性達が映っている映像まで戻り、停止ボタンを押した。

 そして、その部分をズームアップし、解像度を上げた。


 相川は目を疑った。

 無理もない。


 そこに映っているのは、どう見ても二十代から三十代くらいの若い女性達だったからだ。


「一体……どういうことだ?」


 問い質すと、拓松は戸惑いを押し殺すように言い添えた。


に、急変しています」


 相川は、状況をまだ呑み込めない様子で画面に目を泳がせたままだ。

 彼は我に返ったように目をしばたたかせた。


「……! もっ、もう一度、持ち主が携帯を落とす場面まで!」


 拓松がそれに従い早送りすると、


「ストップ!」


 相川は背後で制止した。

 二人は画面をあらためて見た。


 動画主だろうか?

 

 白地にピンクのラインが入ったスニーカーを履いた足元が映し出されていた。


「その後を」


 拓松はまた再生ボタンを押した。


「そこだ! ストップ!」


 また、靴が映っていた。

 しかし、さっきのスニーカーとは違う。


 山登り用と思われる濃い茶色のブーツだった。その上にはジーパンが映し出され、ひざまでで画面は切れていた。


 相川は言った。


「……これを目撃した人物が、もう一人いた。

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