第114話――案内役

 

 柱に隠れていた九十九つくもは時計を見た。

 通報してから、まだ十五分しか経過していない。


「……早く、急いでくれ……」


 突然、頭に何かが触れた。

 カチャっという音が聞こえ、彼は瞬時に状況を悟り、両手をゆっくり上げた。


「前に進め」


 作業服姿の無精ひげを生やしたその大柄な男は、九十九の後頭部に銃をつきつけながら言った。

 男は腰の辺りを探り、彼が隠し持っていたモデルガンを奪い取った。


「柱に隠れてた!」


 九十九の背中を乱暴に押しながら、男は大広間に響くように声を張り上げた。

 ホールにいた全員が、こちらを向いた。


「おう。これは」


 弓削ゆげは意外そうに目を丸くすると、


九十九つくも刑事。はじめまして。こんな頂上でお目にかかるとは」


 そう言って、微笑みかけた。


「……お前が! 松村まつむらはどこだ?」


 感情を押し殺すように問いただすと、弓削は穏やかな口調で答えた。


「話を盗み聞きしてたから、わかるでしょう。反対側からも我々のチームは、あの山に向かっている。彼も大事なですよ」


 弓削は手渡された九十九のモデルガンを、まじまじと観察し、


「……ぼっちで、サバゲーでもなさるおつもりで?」


 揶揄からかうようにそれを指で回しながら言った。

 そして、それを丁寧に返すように、九十九の目の前に差し出した。


 突然、手を離しモデルガンが地面にバウンドして止まると、弓削は

ブーツを履いた足で思い切り踏みつけた。

 バキッという音とともに、呆気なく、それが割れたのわかった。


「丁度いい。がもう一人増えた」


 弓削は強張ったままの半田はんだの顔を見つめながら、また嬉しそうに笑った。

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