第112話――竜宮城
「
「途中でちょっと邪魔が入って。まぁ『
「私達は、
半田は気が収まらず反論を続けようとしたが、
「もう一方のチームは、反対側の山から入っていきます」
弓削は半田の話を早く終わらせたいかのように、強引に話題を変えた。
「……何だって? 私を信用してないのか!」
半田はまた声を荒げた。
弓削はそれを全く気に留めないように軽くいなすように言った。
「あなたが聞こえる声だけを、
すると、半田が少し声を落として言い返した。
「言われずともわかってる。ホテルを建てる前に、ここに大きな
弓削が口元に笑みを浮かべながら、首を横に振った。
「でも、それが悲劇の始まりだった。
そう言うと、近くにいた男性に目を
作業着の下にネクタイを締めているその白髪混じりの男性は、弓削と目が合うと目を見開いた。
「でも、あの山に関心があるのは、大先生だけじゃないんですよ。私達も事件の記事を知って、すっかり
柱の影で話を盗み聞きしていた
(……何だって?)
半田が警戒した顔つきで問いかけた。
「君達の目的は、一体何なんだ?」
弓削は口元に笑みを浮かべたまま答えた。
「あなたと同じですよ。好奇心です。呪いと呼ばれるものを、科学的に解明できたなら。私達が求めてるのは、現代の科学を越えた新しい科学です。新しい可能性と言っても。調べたら、あの山には何の施設もないのに多量の放射線が検出された」
「……
半田が眉を
初めて知るような顔つきだ。
その表情を面白がるように見つめながら、弓削は話を続けた。
「ええ。それに当時、亡くなった捜査官の方達が言い残していたんです。『山の頂上に広場があり、そこで大きな
話を聞いていた半田の表情が険しくなっていくのがわかった。
「……君達は、どうなんだ? その
まるで、先に到達することを
「……私達も頂上目指して、何度も登りました。でも、どうしても到達できない。亡くなった彼らは辿り着けたのに。まるで、山自体が人を選んでいるかのようだ」
弓削は立ち止まると、半田の方を振り返った。
「ヘリで上空からの到達も試みました。すると、目下に見えたんです。あの広場が」
半田の眉間の
完全に、嫉妬の表情だ。
弓削は続けた。
「それを見て私達は歓喜しました。ようやく辿り着けたと。そして、着陸を試みた」
半田は唾を呑み込んで、訊き返した。
「……そこに……下りたのか?」
わざとじらすように、食い気味な半田の表情をじっと見つめると、弓削は言った。
「気が付けば、私達のヘリは、雲の中にいました」
意味が分からない様子で、半田は顔を
「……どういうことだ?」
すると、弓削は首を横に振った。
「わかりません。ただ一つ言えることは、あそこに足を踏み入れるには、何かしらのルールがあるようです」
「ルール?」
弓削は軽く
「何かしらの法則性があると。そこで私たちは、それを検証するために、山の各方面の入口に監視カメラを設置した。そこに出入りする者全てを。誰が失踪し、誰が帰還し、そして、誰がその後どうなったのか?」
話を聞いている半田の表情は呆気にとられたままだ。まさか、そこまでやっている輩がいたとは考えもしなかった様子だ。
「すると、調査していくうちにある共通点が浮かび上がったんです」
「……共通点?」
弓削は深く
「それは、亡くなっている人達全員が、山に入って約一カ月半後に死亡しているという点です」
「……
「ええ。そして全員が全く同じ亡くなり方をしている。まるで竜宮城から帰ってきたかのように、突然、年老いた姿になり、息絶える」
言葉を返せない様子のまま、半田の表情は固まったままだ。
いや、彼だけではない。
その場で話を聞いていた者全ての表情が強張っている。
柱の影で聞いていた九十九の顔も。
「ま……まさか、それが、彼女の仕業だとでも?」
弓削は軽く首を横に振った。
「彼女か、彼か? あるいは、ものか? それは、まだはっきりとは断言できません。私達の調査もまだまだ発展途上です。だから非科学的な力を持つあなたと、こうやって手を組んでいるわけです」
そう言うと、口元に笑みを浮かべたまま探るような目つきを
「はっきりと、聞こえたんですね? その声が?」
弓削に少し圧倒され気味だった
「ああ……確かに聞こえた。『今がその時だ』と。はっきりとな」
「まさに、ぴったりだ」
「……ぴったり?」
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