第110話――パークスカイホテル


 九十九つくもは電話を切った後、その壊れた玄関げんかんを慎重にくぐった。


 すぐにカウンターのようなものが見えた。

 埃まみれで、白っぽくはあるが元の色は判別できない。


 声が聞こえてきた。

 九十九は咄嗟にすぐそばにあった太く丸い大理石の柱に、身を隠した。


「おい、一体どういうことだ! こんなの聞いてない!」


 興奮した男の声が、建物の中で響き渡っていた。

 九十九は柱に身を隠しながら、その方向に目をった。


 大きなホールのような広場が見えた。

 床は白い大理石に、薄汚れたレッドカーペットが敷かれてある。

 天井からは、光の灯ってないシャンデリアがぶら下がっていた。

 ホールの突き当りに、長方形で上部だけが丸い格子窓が等間隔で並び、そこから光が入って、薄暗い中を照らしていた。


 見た限り、十数名以上の人間が集まっていた。


「警官を拉致するなんて、どうかしてる! 計画にはないぞ!」


 九十九は、声を荒げてるその人物の顔を見た。

 その表情は険しく、眼前の作業服姿の男に今にもつかみ掛かりそうな雰囲気だった。

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