第109話――道標


 九十九つくもは着信音をサイレントにして、その電話を待った。

 五分も経たないうちに、相手からかかってきた。


「……相川あいかわ刑事?」


『九十九刑事。状況は察しています。手早く説明します』


 彼の声が向こうから聞こえてきた。


「……何が映っているんです?」


 九十九は眉をひそめながら、その答えを待った。


『ファイルが何種類かに分かれていて。森の中が写っていました。撮影している女性が一人、はぐれてしまったようで。ずっと歩いている様子だったのですが、最後のあたりでのような場所が映っていました』


 それを聞いた九十九が呟くように言った。


「ここだ……」


『え?』


 九十九は即座に悟った。


「……撮影したのは、おそらく村上加絵むらかみかえです。彼女は、その動画を撮って何者かに追われ、殺された」


 電話の向こうの相川刑事が怪訝そうに問いかけた。


『……なぜ、この動画が高倉たかくら刑事を助ける手がかりだと?』


 すかさず九十九は答えた。


「奴らは、きっと。山々に囲まれた中央の小高い山。応援部隊に伝えてください! その動画は貴重な道標みちしるべだ! それに、ここは放射線ほうしゃせんが出てる可能性もある! 必ず防護服ぼうごふくを着用するようにと!」


『……放射線?』


 相手が驚いているのがわかった。

 しかし、今は細かく説明をしている暇はない。


「とにかく、急ぐようお伝えください! 何か情報があればまた」


 そう言って九十九は電話を切った。

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