第108話――頂上の公園

 

 九十九つくもは携帯を取り出して、電波を確認した。

 アンテナは立っておらず圏外だった。試しに捜査本部の番号を呼び出し、かけてみたが繋がらなかった。


 彼は電話を諦め、彼らの後を追うことにした。

 距離をとりながら、気づかれないように木陰に隠れたまま急な勾配こうばいを慎重に登っていった――


 長い行程こうていだった。

 三時間は歩いただろうか。


 木陰がなくなり、光が差してきた。

 勾配こうばいがなくなった。

 平坦な地に、身長ほどあるススキや猫じゃらしなどが生い茂っているのが見えた。


 ここが頂上なのだろうか。


 「……!」


 二十メートルぐらい先に、建物が見えた。

 六階建てほどのその白い壁面を見て、九十九は思った。

 

 ホテルだ。


 前方が枯草で覆われていて、ここからでは一階の半分が隠れて見えない。

 前を行く一行は、高倉を連れて建物の中へと入って行ったようだった。


 枯草に身を隠しながら九十九はその後を追っていき、建物の玄関口付近まで辿り着いた。

 木製でできた入口のドアは両開きだったのだろう。片側がもぎ取られたようになくなっていた。


 咄嗟に思い出したように、九十九は携帯の電波を見た。

 そのが目に入ると、慌てるように本部の番号を呼び出し、ダイヤルした。


 時計を見た。午後二時半を過ぎたくらいだった。


『はい。こちら捜査本部』


 わかい男性の声だ。


「刑事部の九十九つくもです! 女性の捜査官一人が拉致され、今犯人グループと一緒にいる! 名前は高倉真矢たかくらまや巡査! 至急こちらに応援を!」


 九十九は声をひそめながらも、伝わるようにはっきりとしたで発音した。


『……少しお待ちください』


 相手が戸惑った様子で言うと、待ち受け用の音楽が流れた。


「早く代われ……早く」


 三十秒程経過した後だった。


『……九十九つくも? 今どこにいるんだ! 高倉たかくらがいるって、本当か?』


 白川しらかわ部長の声が聞こえてきた。


「部長! 今、御子島みこしまの山の上の建物にいます! 廃業になったパークスカイホテル、音秘目みあひめ神社の山の頂上です。なんで、彼女がここにいるんです!?」


『……ミナカメディカルワークを追ってたら、逆に捕まった! 途中で見失い、捜索を続けてたところだ!』


「地元の警察との連携を! 急がないと、彼女の身が危ない!」


『わかった! 至急ヘリでそちらに向かう! あ、ちょっと待て! 午前中に、府中署の相川あいかわ刑事から連絡があった。お前に伝えたい事があるそうだ』


「……伝えたいこと?」


『何でもSDスロットカードの中身がわかったとかで、の映像だと』


「……広場?」


 九十九の表情が強張った。


「その中身を……ご覧になったんですか?」


『いや……他の刑事も手が一杯でまだ――』


 部長の言葉を呑み込むように、九十九はすかさず言った。


「至急、相川刑事から連絡を。高倉を助けるためのになる可能性が」

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