第104話――広場


 由良ゆら朦朧もうろうとしながら、目を開けた。

 途端に激しい頭痛が襲い、頭を押さえながら辺りを見渡した。


 ここはどこだ……?

 確か、山の中で迷い……

 そうだ……あの女性を追いかけて……


 彼はゆっくりと起き上がり、薄暗い森の中を歩き始めた。


 しばらく歩いていると、遠くの方から音が聞こえてきた。

 警戒しながら、そちらの方に足を歩ませていく。


 音は次第に大きくなってきた。

 何かこするような音だ。

 木々の間から空を見上げると、淀んだどす黒いくもが立ち込めている。

 

 頭をゆっくりと下げた。

 が目に入ってきた。


 あの広場ひろばだ。


 まるで、そこだけ木々を引き抜いたかのように、肌色の乾いた土があらわになっていた。

 草一本生えていない。


 直径で言うと五十メートルくらいだろうか。

 まるで意図して作られたかのような綺麗な円だ。


 広場の一番奥に目をやった。


(あの岩だ)


 すると再び音が聞こえ、咄嗟に由良は木陰に隠れた。

 身を隠しながら広場の中に目を遣った。


 白いものが目に入った。


 広場の左端辺りに、人が立っていた。

 その後ろ姿を見て、由良はすぐに確信した。


 だ。


 他に人は見当たらない。

 女性は地面をこするように、円に沿ってゆっくりと向こうへ歩いていた。

 時折止まっては、また歩き始め、また止まる、を繰り返している。


 突然、視界から、その女性が


 由良は慌てて広場に飛び出し、彼女の姿を探した。

 ふと振り返ると、目の前に、がそびえ立っていた。


 以前に見たビジョンより

 五メートルぐらいはあるだろうか。

 由良は頭を下げた。

 思わずった。


 いつからいたのか。

 人がこちらに背を向けて、していた。


 髪が長く白装束しろしょうぞくを着ていたが、その体つきを見て、さっきの女性ではなくだとわかった。

 その人物は祝詞のりとのようなものを唱えていた。


 突然、彼は黙り込んだ。

 由良は、恐る恐る問いかけた。


「もし……?」


 呼びかけたが、返事はない。


「あなたは、一体……」


 由良が近づいたその時だった。

 その体が、横向けのまま倒れた。


「……!」


 由良は思わず身を引き、息を呑んだ。


 見ると、男性の顔はまるでミイラのごとくせこけ、骨と皮だけだった。

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