第98話――府中警察署


 府中ふちゅう警察署。


 画像データ解析担当の拓松たくまつは、村上加絵むらかみかえの遺体近くにあった割れたSDスロットカードのデータを復旧させる作業に集中していた。


 二十三歳の男性新人分析官で、細身だが俳優にでもいそうな整った顔立ちで濃い眉が際立っている。

 遅番でもうすぐ交代時間だが、彼は手柄を立てることに必死だった。


「あと、もう一息なんだけどな……」


 刑事部の相川あいかわから緊急案件だと聞き、徹夜での作業だった。


「……おっ! きたきた!」


 そのデータの中身は、動画だった。

 ノイズが所々に入り込んでいるが、はっきりと森の中にいることはわかった。


 何か女性の話し声が聞こえてくる。

 拓松はPCの音量を上げた。


『……もう、本当みんなどこ行ったの? ちょっとマジで……どうしよう……』


 女性はどうやら道に迷っている様子だった。

 SDカード中の動画データは、いくつかに分かれていた。

 道に迷ったため、女性が目印として要所、要所に撮影したものらしかった。


 突然、女性が声を上げた。


『……何これ! ……凄い……こんなとこに……なんで……』


 それまで怯えていた彼女の声は、驚きに変わっている。


 動画に写っていたのは、のような場所だった。


『……! あっ、いたいた! よかったぁ……みんな!』


 一旦、画面が地面に向くと、女性が誰かに呼び掛けたのがわかった。


 また広場を映した。

 その奥の方で、人が複数立っているのが見えた。

 遠方なので、はっきりとはわからない。


『あれ……? どうしたの……』


 突然、女性がいぶかしげにつぶやいた。

 拓松は動画をストップさせて、をクローズアップさせた。

 

 思わず目をいた。


「……こっ……これ……」


 そこにを見て、開いた口がふさがらないままだ。


「……大変だ……」


 拓松はすぐ傍にあった携帯を手に取り、アドレスにあった相川あいかわ刑事の番号を呼び出した。


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