第96話――鎮魂
「……それで?」
話に引き込まれながら、
「兄達は、自分達を待つ妹を、三つの山の頂から取り囲み、
「……呪詛とは?」
コップを手に持ったまま、それを口にせず問い返した。
「彼らにとって脅威だった彼女の言葉。それを奪い、永遠にあそこに閉じ込めた」
和室に静寂が流れた。
女将は言い添えた。
「あれらの
また
「……ひょっとして、その女神の名が……」
その先の言葉を継ぐように、女将は言った。
「ええ、『むあ』と呼ばれていたらしく。発音が変わって『みあ』となったとか。元々、声という音を司どっていた神なので、その漢字に当てたと」
女将の話は尚も続く。
「でも、
突然、口を
「何です……?」
女将は言葉に詰まりながらも、声を落として言った。
「人を……捧げたという言い伝えが。実は、御子島の『
少し喋り過ぎた事に気づいたように、そこで彼女は話を止めた。
「……その風習が今も続いてるとか?」
探るように、九十九が問い返すと、
「まさか!
急に表情を緩め、女将はこちらに手の平を倒した。
それにつられ九十九が安堵の笑みを浮かべると、彼女は言い添えた。
「人に見立てた人形を
「……人形?」
「ええ。日本人形やら、
「……へぇ」
「でも三船先生がここを開拓し始めてからは、祭を引き継ぐ人達がどんどん少なくなってきて。『
「神社までも買い取ったんですか?」
九十九が驚いた表情を向けると、女将は落ち着いた笑みを浮かべたまま答えた。
「ええ。それからというもの、その二社では祭りを止めるようになって。当時は、旧くからの住民と随分揉めてましたよ。でも今ではその反対してた人達も、全員歳をとっちゃってね」
「……祭りは完全に廃止されたと?」
すると、女将は首を横に振った。
「
「……しょっちゅうですか?」
それまで穏やかだった女将の表情が少し
「他の二つの神社が祭りを止めちゃったから、その分もやらなきゃいけないとか……風変りな方々だから、私達は関わらないようにしてますが」
「
九十九が少し唐突に尋ねると、女将の顔が一瞬だけ驚いたのがわかった。
すぐに笑顔に戻り、彼女は口を開いた。
「ええ。あの学者先生ですね。存じ上げています」
会話がそこで途切れたので、九十九の方から続けて質問をした。
「彼は、竜宮にヒミコの墓があると言っていましたが」
すると、さっきよりは
「そうですね。そうだったらすごく嬉しいわ。
そう言って女将は笑いながら、こちらに向き直り、
「それでは先生。ごゆっくり」
と
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