第95話――四人の神々

「昔、この島にが住んでいたと――」


 九十九つくもは話に耳を傾けた。


「一番上の長男は、水を司る神。二男は、気を司る神。そして三男は、太陽を司る神。

 この三神がこの島を三つに分け、治めていたんです。

 一番下のは、縁の下の力として三人を支えていました。

 彼女はとても気立てがよく、美人で島を治めていた兄達を心から敬い、いつも学び取ろうと、それにならっていました。

 ただ三番目の兄である太陽神は、その妹のことを快く思ってなかったんです」


「……なぜ?」


 九十九は料理を口にしながら聞き返した。

 女将おかみは続けた。


「その妹には、兄達にはないがあったんです」


「……特別な……力?」


「ええ。『』という。島人たちの中には、それで命を救われた者も多く、彼女に対しての人望が厚かったんです。でも……三男神だけは、そういう妹の力をねたましく感じていたんです」


 少し酔いが回りながらも、九十九は黙って話の続きを聞いた。


「そして、いつしか脅威に感じるように。この島は三つにしか分かれていない。三人のうちの、と。もしそうなれば、一番可能性のあるのは、。彼はそれを恐れ、ある時、二人の兄にこう言ったそうなんです――

』と」

 

 話を聞いていた九十九のはしが止まった。

 

「彼女の声は人をいやせる反面、こともできたんです。ただ、それは神々の間では、『禁忌きんき』とされていました。それを妹が破ろうとしていると信じ込まされた二人の兄は激怒しました。そして……罰を与えようと……」


「……ばつ?」


 九十九は眉をひそめた。

 女将は畳に姿勢よく座したままうなずき、続きを語った。


「彼女に対し、。その儀式をするからと、仏獄ぶつごくに来るよう命じました。彼女はその知らせを聞き、心の奥底から歓喜しました。『したっている兄達から認められた』と、信じて疑わず」


 女将は空になったグラスにビールを注ぎ直して、言った。


「呼び出しに素直に従い、仏獄ぶつごくの頂上に行きましたが、そこには誰もいない。それでも彼女は待ち続けました。それが、であることに一切気づかずに」



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