第91話――御子島へ再び


 九十九つくも竹芝たけしばから始発の船に乗ろうとしたが、海が荒れていて出港が遅れていた。


 御子島みこしまに着いたのは昼前だった。

 途中、何度か由良ゆらに電話したが繋がらなかった。

 彼が今どの辺りにいるか、見当もつかない。

 

 由良が倒れていたが、頭から離れなかった。

 

 松村まつむらの事も全く気づいてやれず、彼の娘も誘拐されてしまった。

 しかし、今は謹慎中だ。

 彼らを探すにも、できることは限られている。

 何から手をつけていいのかもわからない。


 ただ今は、由良を助けることが自分にできる唯一の事だと、九十九は感じ取っていた。

 

 そして――


 ミナカメディカルワークという連中は、ここから持ち帰ったに関心を持っていた。


 


 黒のフリースに下はジーパン。いかにも間に合わせだが、リュックには長靴も入っている。

 そして、これはお守りのような物だが、万が一の時のために自宅にあった本物そっくりのモデルガンをカバンの中に忍ばせていた。

 威嚇いかく程度にしかならないが、ないよりはましだ。

 

(松村を拉致した連中は、この島に出入りしている)

 

 彼は当てもわからず、前回登頂した山の頂上に登った。

 由良が来ているかもしれないと思ったからだ。

 

 岩が所々に顔を出す枯草をかき分け、黒い苔の生えた大岩が積み上げられた磐座いわくらの前に辿り着いた。

 

 由良の姿は見当たらなかった。

 彼との電話での会話を思い出していた。


『過去に漁業、リゾート開発、林業、造船などいろんな事業に着手しています。五十七年ほど前、仏獄近辺の山を開発する予定だったんですが、が起こった直後に取りやめになってました』


「近辺の山、リゾート開発……」


 九十九は積み上げられた岩々の脇から、その風景を見下ろした。

 目の前に広大に広がる樹海。

 そして、それらの海をまるで取り囲むかのような遠方の山々。

 

「……ん?」


 仏獄のちょうど向こうの山に目が止まった。

 頂上に、何か建っているのが見える。

 

 九十九はズボンの左ポケットに入れていた折り畳み式の双眼鏡を取り出し、その建物に向かって覗き込んだ。

 

 かなり遠方なので双眼鏡を通しても限界があったが、黒っぽい屋根と白の外壁であることはなんとなく確認できた。

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