第89話――終来

 由良ゆらは先ほどの老夫婦ろうふうふがいた頂上に戻ってきた。

 二人の姿はもうなかった。

 

 もう一度、遠方に見えるを眺めた。

 

『もう遅い』


 突然、またが聞こえた。

 

「……! 何が! 何が遅いんだ?」


 由良は大声で問い返した。

 

すでに、破られている』

 

「……破る?」


 思わず眉をひそめた。


 もう一度、巨大な磐座いわくらの脇から、その風景を見渡した。

 ちょうど真正面に、仏獄ぶつごくがある。

 

 右方向に顔を動かした。

 山の頂が見えた。

 前回は、あの辺りを登ったはずだ。御子みこ神社から登った山だ。

 

 今度は、左方向に目を遣った。

 建物が立つ山が見えた。

 

 今、自分がいる山。

 御子神社から登った山。

 建物が立っている山。

 

 これらを繋ぐと、綺麗な三角形になった。

 

 そして、そのちょうど真ん中に、が、すっぽりと収まる形になっている。

 

 もしかして――

 

 抑え込んでいるのか?


 


 あらためて、建物が立つ山を見た。

 

「……あそこにも磐座いわくらがあったのか。……それが、壊された……」


 

 

 由良は、五十年以上前に、それが起きたことを悟った。

 

が目覚めた』


 男性の声が聞こえた。

 咄嗟に辺りに視線を遣った。

 

「彼女って……一体誰の事なんだ? まさか……本当に、ヒミコなのか?」


 由良が聞き返すと、声は言った。

 

『終わりが、すぐそこまで近づいている』

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