第85話――掘立小屋


 ギギギッときしむ音を鳴らしながらドアが開き、由良ゆらは小屋の中を見渡した。


 真っ暗で何も見えない。

 

 背負っているリュックを下ろし、中から小型の懐中電灯を取り出してスイッチを入れた。

 

 中を照らすと、すぐ目前に蜘蛛くもの巣が見え、大きな蜘蛛がササっとっていくのが見えた。


 一瞬驚いてったが、すぐさま手でそれらを払った。

 

 気を取り直すように、由良は光を部屋の中に当てた。

 

 外観では、もう少し広い印象を受けたが、それよりは狭い。

 六畳くらいのスペースだろうか。


 由良はライトを照らし、床のきしむ音を立てながら前へと進んだ。

 

 部屋の一番右奥に、事務用の地味なグレーのデスクが左向きに置かれてあった。

 机の上にはびかけたシルバーのスタンドライトが見えた。

 スイッチのボタンを入れても点灯はしない。

 

 デスクの中央の長細い引き出しを開けた。


 ライトを当てると、短くなった鉛筆がコロコロと数本転がり、黒く小さくなった消しゴムがポツンと広いスペースの中で持て余すように入れてあった。

 

 由良はそれを閉じると、右側にライトを当てた。

 引き出しが三つあった。


 一番上のそれを開けようとしたが、鍵がかかっていた。

 その下の引き出しを開けた。

 中身は空だった。

 さらに、一番下の大きめの引き出しを開けた。

 中には泥まみれの工事用ヘルメット、安全帯、小型のスコップなどが無造作に入れられていた。

 

 由良はの鍵を探そうとし、部屋の中を見回した。

 しかし部屋中蜘蛛の巣だらけな上に、真っ暗なのを見てすぐに諦めた。


 彼は鍵の開いている二つの引き出しを、引っ張り出して抜き取った。


 そして床に手をつき、仰向けの姿勢のままその抜き取ったスペースに頭を突っ込んだ。

 何とか右腕も通り、右手で鍵のしまった引き出しのから手探りで中身を探った。


 何かが手に触れた。

 ノートだろうか?


 必死でそれをつかもうとしたが、狭すぎて持つことができない。


 指をかろうじてそれに当てることはできた。

 人差し指でノートの表紙をめくりあげたところを、中指で挟んだ。

 そのままゆっくりと引き出しの背面から引っ張りだそうとした。


 が、表紙以下の部分が引っ掛かり取り出すことができない。

 腕と指がりそうになりながらも、何とか親指を潜らせて、それを掴むことができた。


 首を外に出して起き上がった由良は、慌てるようにそのノートを机の上に置き、ライトを当てた。

 

 ノートというよりだった。

 

 藁半紙でできていて、右端に二つ穴が開いている。そこに黒紐が通してあり、蝶々結びでわれている。

 かなり黄ばんでいて、表紙には縦書きで『作業日誌』とだけ記されていた。


 由良はライトを照らしながら、それをめくり始めた――

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