第83話――仏獄を取り囲む山


 由良ゆらは、山の頂上にいた。


 以前、半田はんだ達と共に辿り着いた場所だ。

 その巨大な磐座いわくらの脇からを見下ろし、もう一度霊視を試みた。

 

 やはり、そうだ。

 

 イメージが浮かび上がったと思ったら、まるで、横から割り込んでくる。

 

 そこから感じるのは、だ。


 の姿は見えないが。


 由良は仏獄ぶつごくに執着するのを一旦止め、に着目することにした。

 

 五十七年ほど前に、この近辺をリゾート開発をしたと聞いた。

 何かその痕跡はないか。


 それらの山々を見渡した。

 しかし曇り空のためか、山の頂上は確認できなかった。


 一旦、山を下り、別方向から登ることにした。

 仏獄を取り囲む山々を徹底的に調べようと、方位磁石を頼りに、登山口を探し歩いた。

 

 途中で道が切れたり、倒木が激しく、前へ進めずまた戻り、また道を見つけては、進んでいく――

 

 木々とカビが入り混じった臭いが、鼻についた。

 落ち葉や枝が積もった地面をバキバキと音を立てながら歩いて行くと、ステッキの跡が残っていて、明らかに、最近があった。


 地元では有名な登山コースなのだろうか。

 山道さんどうを辿って、二時間近く登った。

 前回よりも足元は固まっていて、登りやすくなっていた。


 頂上から光が差してきた。

 由良は、その山の頂上に着いた。


 前回の山と違い、ここは枯草などの雑草は生えていなかった。

 まるで、誰かの手によって手入れが行き届いているかのようだ。

 

 あらわになった乾いた土の地面に、人の身長より少し大きいくらいの岩々が、不自然に数メートルの間隔を空けながら立ち並んでいた。

 幅二メートルぐらいの太いものもあれば、一メートルぐらいの長細いものもあった。


 間隔を置いて立ち並んでいる光景は、あたかもだった。

 

 由良は岩々の隙間をくぐるように、広場の奥へと進んだ。

 

 ここにも複数の大岩が絶妙なバランスで積み上げられたがあった。

 前回登った山のそれと、大きさも似通っていた。

 

 由良は、その脇から景色を見渡した。

 

 ここからでも前方に、を確認することができた。

 

 特徴のあるきれいな円錐えんすい

 

 仏獄だ。

 

『来るんじゃない』


 突然、が聞こえた。

 

 男性の声だ。

 とても低く、少しかすれている。

 

 由良は思わず辺りを見回した。

 

「……だっ……誰!?」

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