第82話――安田文化財コンサル
「
「じゃあ、今は
助手席に背凭れた
小太りで
九十九とは組んだことはなかったが、同じ刑事部の中での付き合いは長かった。
郷田と高倉は、港区にある㈱安田文化財コンサルの事務所前に車を止めていた。
高倉が話を続けた。
「気になることが。安田社長は消費者金融に多額の借金がありましたが、五年前に突然、全額返済しています。ちょうど、そのもう一社と手を切る前後くらいに」
「借金を肩代わりしてくれる別の一社を見つけたのか」
郷田はそう言った後、高倉の方をチラッと見た。
「高倉。
探るような口調で訊いてきた。
「いえ」
高倉は目を
郷田は続けた。
「あの人が、あんなに取り乱しているのは今まで見たことがない。松村の件もあるが……。あの
郷田が露骨に忌み嫌うような表情を見せた。
「探偵です」
高倉は前を向いたまま、それとなく返した。
すると、郷田が高倉の顔をじっと見つめ始めた。
「なっ……何です?」
高倉が思わず仰け反る素振りをすると、
「……お前もまさか、奴に洗脳されてんじゃねぇだろうな?」
険しい顔で問い詰めてきた。
「違いますよ!」
咄嗟に否定すると、郷田が語調を強めた。
「頼むぞおい。刑事が失踪してるんだ。お前までミイラになるなんて勘弁してくれよ……」
少し責め立てるように言うと、
「あっ! 来ました!」
郷田の追及を早く終わらせたいかのように、高倉が窓ガラスの向こうを指差した。
見ると、灰色の作業着の下にネクタイを通した中年男性がこちらに歩いてきた。
「よし」
郷田と高倉はドアを開け車から降りると、その男性に近づいていった。
「
事務所ドアの鍵を開けようとしていたその男性の背後から、郷田が声をかけた。
「……え? はい。そうですが……」
白髪交じりのその中年男性は
「警視庁の
「……警察?」
安田は眉を
「最近、刑事が失踪した事件をご存知で?」
「……ああ、ええ。ニュースで……それが?」
「少し発掘関連の企業を調べてまして。この会社は、社長お一人で?」
安田の手に握られている鍵に目を遣りながら、郷田は問いかけた。
「……そうですが」
彼の表情が強張ったのがわかった。
「多くの発掘を、たった一人で?」
探るように問いかけると、安田は必死に居直るように言った。
「……アルバイトを毎回雇っているんです」
引き
「御子島の発掘をされてますね? 五年前までは別の会社とやってきたのに、何故、突然、手をお切りに?」
「別に、違法じゃないでしょ」
少しムキになるように安田は反論した。
「以前、消費者金融に借金がおありでしたよね? もうすでに完済されてますが、どうやって――」
すると、
「……ちょっと仕事が入っているので、すいません今日は」
質問から逃れるように、顔を強張らせながらドアを開け、事務所の中へと入って行った。
郷田と高倉は顔を見合わせた。
安田は中に入ると、すぐさま事務所の電話を手にとり、ある番号にかけた。
相手が出るや、否や、
「警察が来た……刑事が失踪って?」
向こうからの返答を聞くと、彼は思わず声を上げそうになった。
「何だって!……」
ドアの方を
「三船氏から聞いた……君達は一体何者なんだ? 私は……面倒な事には関わりたくない!」
そう言うと、安田は怯えるように受話器を置いた。
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