第78話――予兆


 九十九つくもは運転席に座り、シートにもたれていた。

 深く溜息をついた。そして両手で顔を覆った。

 

 気がつかなかった。三年も一緒にいて。


 あいつが。

 松村まつむらが、


 そして、自分は、彼が消えた後――

 

 


 自己嫌悪の感情が胸の内から湧き上がってきて、こらえ切れず思わず顔を上げた。

 

 が立っていた。

 

「お、おい……! や、やめろ!」


 次の瞬間、が目の前に現れた。

 

 まただ……

 

 巨大な大岩が、彼を見下ろしていた。

 

 ふと、足元を見ると、人がうずくまっていた。

 

 背をこちらに向けていたが、はっきりわかった。

 

 だ。

 

 すると、その人物は震えながら、こちらを振り返った。

 

「……!」


 それと同時だった。

 

 まるで空気がしぼんでいくように、あどけないが痩せ細っていき、しわが刻まれ始めた。


 みるみるうちに髪の毛が白くなっていくと、彼は口を開いた。

 

『逃げろ』


「……!」


 ふと気づくと、由良ゆらの姿はなく、子供は消えていた。


 茫然とした後、彼は慌ててキーをさし、エンジンをかけ車を発進させた。

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