第72話――死人に口


「何かの間違いだろ!」


 九十九つくもは解剖医の田坂たさかに向かって声を上げた。

 

「いいえ。これだけ明白あからさまに、内臓、筋肉、血管がで生きることはです」


 言葉を返せない九十九に向かって、田坂は尚も言った。

 

「解剖の結果、間違いなく岡彩乃おかあやのは、しています」


 無言の時が、数秒間流れた。


「そ……そんなバカな……数日前に、本人と話をしていたのに?」


 九十九は隣にいた高倉たかくらと目を合わせた。

 彼女も唖然としたままだ。

 

 彼は、ふと思った。

 高倉は、に耐え切れず、アパートの外で嘔吐おうとした。

 

 その腐敗臭が、――

 

 自分は、


 

 

 でも、じゃあ、なぜ……


 彼女は死んでいたのに……生きていた?

 

 いや……


 九十九は考えるだけで、頭がどうにかなりそうだった。

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