第71話――警告


「……彩乃あやのが……そんな……」


 半田義就はんだよしなりは、いきなりの訃報ふほうに絶句していた。

 

「あなたとおかさんは交際されていたんですね」


 九十九つくもは遠慮がちに問いかけた。

 半田はまだその事実を受け止め切れないように、視線を泳がせながらも言葉をつむいだ。

 

「……ええ。……でも、二か月前に、彼女の方から別れを告げられたんです」


「……何故?」


 半田は呆然としたまま答えない。

 質問が耳に入っていない様子だ。


「……半田さん?」


 目をしばたたきながら、彼は必死に気を持ち直そうとした。


「……ああ、ええ。その、突然、彼女……『』と言って……」


「……何故、そんなことを?」


 半田は更にまばたきを繰り返すと、首を小刻みに横に振った。


「……わかりません。それで私の事を避けるようになって。まさか、でも……こんなことになるなんて……」


 半田はこらえきれない様に声を震わせた。

 

「二か月前と言うと、それはツアーに行く前ですか? 後ですか?」 

 

「……ちょうどツアーから戻ってからです。彼女、人が変わったように、何か悩みを抱えてるような感じで……。『』と」


「……とんでもないこと?」


「聞いても、はっきりと答えてくれなかったんです……でも、妙なことを口走って」

 

 口を噤んだ半田に対し、九十九はをおいて訊き返した。


「何を?」


 動揺が収まらない様子のまま、半田は口を開いた。


』と」


「彼女とは……?」


 問いに答えないまま、半田は黙り込んだ。

 その反応を見て、九十九は即座に悟った。


「……岡さんが、『彼女』と呼んでいたものについて、どう思われます? もしや、あなたが聞こえるの主の事では?」


 半田は狼狽うろたえながら視線を落とした。


「いや……それはわかりません。ただ……きっと、彩乃あやの辿


 九十九がその言葉に鋭く反応し、目を見開いた。

 半田は唾を呑み込んで尚も言った。


「……彼女は言いました。だと」


 彼はせきを切ったように、感情をあらわにし喋り続けた。。


「きっと、そこで何かを見たんだ。……私のせいだ。私が彼女をツアーに連れて行ってしまったために……」


 見ると半田の両目には涙が浮かんでいた。

 

「……次のツアーの日程は間近に迫っていますが」


 九十九が少し含みを入れて言うと、半田は涙を手で拭った。鼻をすすると、彼は首を横に振りながら言った。

 

「いいえ……もうこれ以上、犠牲者を出すわけには」

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