第70話――五十七年前の名残


「もう具合は、大丈夫なのか?」


 九十九つくもが問いかけると、その質問には答えず由良ゆらは少し食い気味に言った。


御子島みこしまに行った時のあの山、がどうしても気になって調べたんです』


「……それで?」


『そしたら、あの山を含む周りの山々も全て、であることがわかりました。しかも、同一人物の』

 

 を置くと、

 

「それも、霊視で調べたのか?」


 九十九が少しだけ皮肉を交えて言った。

 そばにいた高倉たかくらが思わず振り返って、いぶかしげな表情をこちらに向けた。


『いえ。インターネットと電話で』


 平坦な語調で、由良は返事をした。

 九十九は少し声を潜めて、問い返した。

 

「で、名前は?」


『所有者の名前は、三船洋二みふねようじ。半田義就が言っていた例のです。この島の名士で、現在は御子島みこしまの町議会議長を勤めていて、過去に漁業、リゾート開発、林業、造船などいろんな事業に着手しています。五十七年前、仏獄近辺の山を開発する予定だったのですが、が起こった直後に、になってました』


「……何だって?」


 由良は言った。

 

『五十七年前のきっかけで事件が起きた。そして、それは。少し東京を離れます』


 その言葉を聞いて、九十九はすぐに彼が何をしようとしているかに気づき、


「待て! 安易に一人で行動するな! それにも……」


 思わず声を上げてしまい、高倉の方を気にすると声を落とした。

 

「……も、あの山に近づくなって言ってたんだろ? 君が言ったんだぞ」


『ええ。あの山には行きません。ただ、周辺の山々に何か隠されているような気がして』


「気がするって……そんな漠然としたままで」


『一言伝えておいた方が良いかと思いまして。それだけです。では』


 そう言うと、由良はこちらの返事を待たず電話を切ってしまった。

 

「おい……ちょ、待て! ……おい!」


 画面を見ると、すでに待ち受け画面に戻っていた。

 九十九は溜息をつきながら、携帯をポケットにしまった。


 そして今度は、本棚の上に置かれたを手に取り、それを背後にいた高倉に向けた。

 

「『』? とてもそういう感じには見えないけどな」


 自撮りしている写真だろうか。

 

 その待ち受け画面には、肩を寄せ合いながら笑顔で写っている岡彩乃おかあやの半田義就はんだよしなりの姿が写っていた。

 

 高倉が怪訝な表情で言った。

 

「……何故、彼女は嘘を?」

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