第68話――侵入者


 岡彩乃おかあやのは、いつものように午前0時になると、震えながら布団の中で背を丸めた。


 寝室の向こうの居間から、が聞こえてきた。


 彩乃あやのは体を震わせながら、思い切り目を閉じた。

 汗が全身から滲み出てきた。

 呼吸が徐々に荒くなる。


 次第に、その話し声が少しずつ此方こちらに近づいて来るのがわかった。

 すると、寝室の入口手前で、


 目は閉じていて何も見えない。

 

 彩乃は背を向けているが、そこに立っているのを、はっきりと感じた。


 しばらく沈黙が続いた後、突然ピピッというエアコンのスイッチが入る音がした。

 ゴゴッという音が鳴ると、暖かく強い風が彩乃の顔に吹き付けてきた。

 

 彩乃は、唾をゆっくりと呑み込んだ。

 

 風が部屋中に行きわたり、暑く感じられるぐらいにまでなってきた。

 彩乃の全身から、さらに汗が噴き出した。

 

 強い温風が、いつも以上に顔に強く当たるのを感じながらも、ひたすら彩乃は目を閉じ続けた。

 

 壁に画鋲がびょうで刺してあったが、強い送風で外れて落ちた。

 

 突然、エアコンのスイッチが止まった。

 

 部屋がまた静まり返った。

 

 彩乃は、少し安心したようにゆっくりと目を開けた。


 横になったまま、額からしたたり落ちる汗を両手を当ててぬぐった。

 手の平を見ると、汗がべっとりとついていた。

 もう一度拭った。


 一瞬、彩乃の体が硬直した。

 

 もう一度拭った。

 

 そして、もう一度。

 

 彩乃は手の平を見つめていた。

 

 

 

 彩乃は、震えながら恐る恐る振り返った。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ――――――!」


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