第63話――死因


「彼女は府中の森公園の中で遺体で発見されました。明らかにです」


 遺体安置所の中で、その壮年そうねんの刑事は九十九つくもに向かって言った。

 彼の傍にはさっき高倉たかくらを制止したわかい男性刑事も同席している。

 

 目の前には、青白い顔で動かなくなった村上加絵むらかみかえが横たわっていた。


 九十九はを見て、すぐに気づいたように言った。


絞殺こうさつか」


「ええ」


 ロープなどで絞められた赤黒いあざがくっきりと残り、その付近にはひっかき傷と思われる吉川線よしかわせんが明らかに見て取れた。


「何か証拠品は?」


 九十九が問いかけると、若い刑事がジップ袋を手に取ってこちらに見せた。

 何かの破片だろうか。

 黒いプラスチック製でできている。

 

「石か何かで粉々にした痕跡が。おそらく、これはSDスロットカードです」


 そう言ってその破片を袋の上から指差した。

 『▲』と記された下に、『LOCK』と書かれてあるのがわかった。


「中にデータが?」


 傍にいた高倉たかくらが問いかけると、壮年の刑事がちらっと彼女の方を向いた。

 その面倒臭そうな表情に、彼女はまた身構えた。

 をおくと、その刑事は答えた。

 

「よっぽど、犯人は慌てていたんでしょう。SDホルダーの中にチップは残っていました。ただ、こちらも損傷は激しく、データの復旧作業はこれからです」


「彼女の所持品は?」


 九十九が問いかけた。


「……それが、何も見つかりませんでした」


「何も?」


 九十九は思わず声を高くした。


(村上加絵は荷物を持って出て行った……)


 犯人の目的は、明らかに彼女が持ち出した物だと九十九は確信した。


「……そこのは、何故、小石と?」


 壮年の刑事のに、また高倉は目をいた。

 九十九は彼女の方をちらっと向くと、目をらし表情を変えずに澄ました様子で答えた。


「一連のガイシャは同じような石を持っていました。今回も関係あるならと思ったのですが」


 その刑事は九十九の目を見据えると、首を横に振った。


「残念ながら、そのようなものは見つかりませんでした」


 すると彼は探るように、


「……もし、そちらの事件と関連性があるなら、情報を共有させていただきたい。一体、その二人は、?」


 鋭い視線を九十九に向けてきた。

 室内に沈黙が流れた。

 

 

 

 一言で説明すると、それだけで終わる。


 しかし、今は少し複雑な状況だ。

 ただでさえ抜き打ちで乗り込み、向こうもピりついているのがわかった。

 九十九は言葉で説明するのを諦め、言い添えた。


「報告書を後で送ります。そちらを見ていただいた方が早いかと。今日はひとまず、これで失礼させていただきます。それでは」


 九十九はそう言って頭を下げた。

 高倉もそれに習ったが頭を上げると、またと目が合い少しにらむように顔を強張らせた。

 それを察してか、九十九が高倉の肩を叩きながら軽く促した。


「行くぞ」


 ドアが閉まり、二人は出て行った。


 部屋に残った二人の刑事の表情は、険しいままだった。

 若い方が、その壮年の刑事に向かって口を開いた。


相川あいかわさん。あの刑事……」


 その言葉を呑み込むように、刑事は言った。


「ああ、知ってる。元マル暴のデカだ。は、一回見たら忘れない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る