第61話――告


「君にも見えたのか……ああ、そうだ。間違いない」


 半田はんだは何の事か分からない様子で二人の顔を見比べている。

 

 九十九つくもはバリケード手前にあった白い立て看板を見た。

 長い年月で雨ざらしにされているせいか、所々がげ顔を近づけて見ないとはっきりと読めない。


『絶対危険! 入山禁止。クマ出没多数目撃情報あり』


と赤で縦書きに書かれていた。


「ここから先が……間違いないんですか?」


九十九はバリケードの向こうを覗きながら、背後の半田に尋ねた。


「ああ……ええ。ただ、何の準備もなしに入るのは自殺行為です。書いてある通り、熊の目撃情報も多数あって……!」


「少しだけだ」


 半田が喋っている途中で、九十九がフェンスをよじ登ろうとした。


「……ちょ!」

 

 半田が目を丸くし、咄嗟に止めようとすると、

 

「いや、やめた方がいい」


 背後から由良ゆらの声が聞こえ、思わず二人は振り返った。

 由良は表情を変えずに、さらに大きな声で言った。


なのかもしれません。お兄さんからの」


「……何?」


 九十九が思わず眉をひそめた。

 

 すると由良は子供が消えた草叢くさむらの前に屈み、それをじっと見つめた。

 そして、九十九を見上げながら言った。

 

「何故、お兄さんはに?」


 そう言うと、何かに気づいたように屈んだまま振り返った。

 無表情のまま指を差した。

 

 九十九はその先を目で追いかけた。

 

「……!」


 枯草が生い茂る広場の向こうに、が立っていた。

 

 九十九は思わずそちらに身を乗り出したが、次の瞬間、彼は消えていた。

 

と、彼は言ってるんです」


 由良はしゃがんだまま、九十九の背後から呼びかけた。


 九十九は消えた兄をまだ追う様に目を泳がせると、再びバリケードの方を向いた。

 脇にあるその草むらを見てしばらく考えた後、彼は言った。

 

由良ゆら君。君は半田はんださんと一緒にクルーザーで帰ってくれ。俺は後から船で戻る」


 再びバリケードに手を掛けてよじ登ろうとした。

 

九十九つくもさん!」


 思わず由良ゆらが立ち上がった。

 

 突然、九十九の携帯が鳴った。

 

「……クソ!」


 九十九は苛立つようにフェンスから手を離し、ジャンパーの内ポケットから携帯を取り出した。

 

「もしもし?……なんだって!」

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