第54話――御子島


 早朝六時に、半田義就はんだよしなり九十九つくも、そして由良ゆらの三人はクルーザーに乗り込んだ。

 

 御子島みこしま

 

 東京の伊豆大島から、さらに南東へ三十キロメートルほど進んだ所に、その島はあった。

 

 人口は、三千人程。面積は九十キロ平方メートル。

 人口のほぼ大半が漁師、農家だった。

 ただ春には桜、冬には紅葉が咲き、旅行通の間では、ちょっとしたスポットになっていた。

 特にこの十年では、外国人の観光客も増加傾向にあった。

 温泉街もあり、ホテルや古い民宿、旅館も多く立ち並ぶ地域もあった。


 三人は、その島の一番南に位置する港に九時過ぎに到着した。

 

 これから紅葉こうよう季節シーズンのせいか観光客が想像以上に多く、港にはバックパックを背負った金髪の外国人やアジア系の団体も多く見えた。

 港近くには十階建てくらいのホテルが、木々の間から所々顔を出していた。


 半田の自家用クルーザーから、三人は港に降り立った。

 一向はタクシー乗り場に向かった。

 

 先日のジャケット姿とは打って変わって、長袖のカラフルなネルシャツを腕まくりし、チノパンを履いてバックパックを背負っている半田はタクシーを呼び止めた。


御子神社みこじんじゃまで」


 彼がそう告げると、車は発進した。


 他の二人も、いつもと出で立ちは違った。

 九十九は黒い薄地のジャンパーを羽織り、下はジーンズ姿。由良は濃いグレーの布地パーカーを着て、下は同じくデニムだ。


 北東へおよそ五キロメートルほど国道を進んで行った。

 畑や田んぼしか見当たらなくなり、信号も何もない田んぼの畦道あぜみちが交差する地点で三人は降りた。


 一見、目印らしき所はない。

 が、右側の畦道の数十メートル先に鳥居が見えた。

 一行はそちらに足を歩ませて行った。


 木目が剥げて白がかった鳥居の中央には、

 『御子神社』

と名を記す扁額へんがくがかかっていた。

 前方を見ると、山で覆われ人気ひとけは全くない。


 三人はその鳥居をくぐり、すぐ先の石段を上がり始めた。

 完全に森の中だ。

 

 五分ほどで、本殿ほんでんがある広場に辿りついた。


 枯れかけた草が、膝くらいの高さで生い茂っている。

 見るからに宮司ぐうじもおらず、誰も手入れしていないことは明白だった。

 本殿ほんでんもかなり古びていて、蜘蛛の巣があちらこちらに張っている。

 島の人ですら、誰も参拝している気配を感じなかった。

 

 半田は、御前おまえであることを全くはばからずに本殿の前を通り過ぎた。二人もその後をついていく。

 

 広場の左端にができていた。

 草が生い茂っていて、本当によく見ないと見逃すくらいの細い山道だった。

 

 半田は二人を振り返りながら、言った。


「ここから登れば、につきます」

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