第51話――来訪


「警察ですが。二〇一号室の方に少しお話を」


 九十九つくもは手帳を掲げて、フロントの男性に見せた。

 

「え……」


 突然の来訪に、グレーのスーツ姿の男性は一瞬、戸惑いを見せたが、


「あっ……ええっと、少々お待ちください」


 慌てて鍵を探し始めた。

 が、すぐに思い出したように顔を上げた。


「二〇一……ああ! さっき、ちょっと出かけるって……」


 その鍵を掲げながら言った。

 三人は顔を見合わせた。

 

「開けていただけませんか!」


 九十九が思わず声を荒げた。

 

「あ……はい!」


 その威圧感にあっさり屈し、フロントの男性はき立てられながら階段で二階へと上がって行った。

 三人もその後に続く。


 部屋の前まで行き、男性は二回ノックをした。

 

「すいません。フロントです」


 応答はない。

 

「開けますね。失礼します」


 一声をかけると、鍵を開けた。

 待ちきれないように、九十九は割って入りドアを開けた。

 

「……! クソッ!」

 

 部屋には、荷物一つ残っていなかった。


 由良ゆらが険しい顔つきで、フロントの男性に問いかけた。

 

「何分前に、彼女は出て行ったんですか?」


 男性は記憶を辿りながら、


「……四十分前くらいだったかな」


 たどたどしく答えると、由良は不可思議な表情を浮かべた。


 (電話で話した……?)


 その時の彼女の声色を思い起こした。

 

(明らかに怯えていた)


「……助けを求めて呼び出したのに」


「気づかれたんだろ、警察と一緒だと」


 九十九の言葉に、由良は咄嗟に心の中で反論した。


 でも……どうやって?

 

 自分と警察が繋がっている事を知る理由など、向こうにはないはずだ。

 とすると、考えられることは……。

 

 

 

 由良の頭の中から、村上加絵むらかみかえの悲痛な声がいつまでも離れないままでいた。

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